第25話 レアメタル
その後もさまざまなモンスターに襲われたが、零那の法術の前にすべて瞬殺されていった。
自転車と違って今回は徒歩なので以前よりも時間がかかる。
零那たちはおしゃべりしながらダンジョンの中を進んでいく。
「ねえねえ、羽衣ちゃんも山伏なんでしょ? ってことは、お姉さまと同じ術が使えるの?」
虹子に聞かれた羽衣はうーんとちょっと考え込んでから答える。
「そうですね、使える法術もあります。基本的なやつなら私でも使えるかな。でも、お姉ちゃんすごいから……。お姉ちゃんにしか使えない法術もいっぱいありますよ」
それに零那が補足して言う。
「そうなんだけど、羽衣の場合、普通の山伏とは違う方向に興味が行っちゃったから……正統派じゃないっていうか。逆に、羽衣が使えて私が使えない法術もあるわよ」
それを聞いて虹子は目を輝かせた。
「へー! 見たい見たい! ね、今度モンスターが出てきたら羽衣ちゃんがやっつけてよ!」
「えー……ちょっと、カメラの前だと恥ずかしいっていうか……。お姉ちゃんが倒せばいいです。私は後ろで必要なときにフォローしますから。……お姉ちゃん強いからそんなのいらないと思いますけど」
「つまんなーい! 羽衣ちゃんのちょっといいとこ見てみたい! そぉれ、イッキ! イッキ! イッキ!」
虹子が煽るが、羽衣は顔を赤くして俯いてしまう。
「こらこら、私のかわいい妹をいじめるんじゃないわよ。羽衣は人の注目集めるのが苦手なんだから。一対一なら普通に話せるけど」
宙を飛んでついてくるドローンに目をやりながら零那がそう言った。
零那たちはドローンに取り付けられたカメラでその姿を全世界に配信されているのだ。
いま話題の女山伏がゲストとあって、同時接続数は1万人を超えている。
「え、でも羽衣ちゃんもお姉さまとダンジョン配信やりたかったんでしょ?」
「……違います。ダンジョン探索はやりたいって言ったけど、配信は別に……」
羽衣は俯いたまま答える。
そこで零那は一つ気になっていたことがあったので聞くことにした。
「そもそもさ、ダンジョン探索ってのはダンジョン内のレアメタル掘るためにやるもんなんでしょ? 虹子さんみたいに配信してそこから収益あげようって人は少数派だって聞いたけど」
「ま、そうね。普通はレアメタル目当てよ」
「私ダンジョン探索ってよく知らないんだけど、レアメタルってどこで掘れるの?」
「そうね、ダンジョンの床とか壁とかに埋まってるのよ。たまにモンスターを倒すと出てくることもあるけど」
「簡単に見つかるもんなの?」
「よく見れば青く光っているのが見えるよ。魔法を使って探す人もいる。ダンジョン内だと電動の機械はうまく作動しないから、壁とかに埋まってるときはカナテコでほじくり出すの。地下一階じゃ小指の先ほどのしか採れないけど、地下五階くらいまで潜れば、ゲンコツくらいのが掘れたりするよ。ものすごく重いから持って帰るのも大変だけど」
「虹子さんは掘らないの?」
「私は戦闘専門で掘るためのスキルとか魔法使えないし……。正直、効率悪いと思うんだよねー。お姉さまって経済ニュースとかあんまり見ない?」
「まったく見ないわ」
山伏装束ごしでもわかるほど大きな胸を張って堂々と言う零那。
虹子はちらっと零那の胸に目をやると少しニヤけた表情を見せたがそれについては特に言及せず、
「あのね、人件費が日本よりずっと低い国でいっぱいレアメタルが掘れるダンジョンがいくつも見つかって、レアメタルの価格が暴落してるのよ。5~6年前なら儲かったけど、今はあんまりねえ」
「ふーん。ウービーイーツの配達と一緒ね。あれ、最近配達料がしぶくて……」
「……一緒かなあ?」
話しながらも一行はどんどんダンジョンを進んでいく。
たまにモンスターに出くわしても零那が錫杖からレーザー光線を出して瞬時に蒸発させていく。
自転車よりも時間がかかったとはいえ、零那たちはすでに地下四階にたどり着いていた。
普通の人間にとってはこの地下四階で遭遇するモンスターは生死をかけて戦う強敵ぞろいである。
それなのに、零那は緊張感もなく虹子を質問攻めしていた。
「虹子さんは一人でダンジョン配信してるんでしょ? ずっと一人?」
「ま、昔は二人で組んでた時代もあったけど……今は一人。いろいろあったんだよ」
「ふーん。レアメタル掘る人たちってのも一人でやってるの?」
「レアメタルの暴落前は5~6人のパーティ組んでやってる人が多かったよ。今はねー……それじゃあペイしないから、1人か2人でやってる人が多くなってるって聞いた」
「ふーん。結局、今はダンジョン配信のほうが儲かるってこと?」
「そう! 私はずっと配信でやってきたから登録者も多いし、今更参入してくる新人に負けないようにしないとね! 先行者利益を最大限に生かす! あ、着いた着いた、みなさん、ここが今日の目的地でーす!」
虹子が指差したその先には階段があった。
さらに地下へと続く階段。
今いるこの地点が地下四階なのだから、とうぜんこの階段を降りた先は地下五階でなくてはならない。
しかし。
この階段こそ、虹子を死の間際まで追いやった階段なのである。
「なんと! ここを降りると地下6階にたどり着きます! いやー死ぬかと思ったよ! 地下6階だと国の救助隊も来てくれないしね! さ、じゃあ始めますか!」
そして虹子はかついでいた木の板をリュックからおろした。




