第22話 幽霊のマーキング
「キャア!? 嫌っ! 憑いてるってなにが? どこに!?」
虹子が自分の肩をパタパタとはたく。
「まさか、昨日会ったあのゴスロリっ子、ここまで付いてきたの!?」
慌てふためく虹子。
零那は落ち着いて言う。
「いやいや、あの子自身は付いてきてないよ。でも、あの子にマーキングされちゃったみたいね。霊魂の残滓みたいなのがほっぺたについてるわよ」
「いやぁっ!」
虹子は自分の頬をゴシゴシとこする。
あーあー、せっかくかわいくお化粧しているのに剥げちゃうよ、と零那は思った。
「そんなことしてもお化粧しか落ちないわよ。別に、それだけじゃ特に悪さはしないと思うわ。ただ、次にあのダンジョンに入ったら、あの幽霊に捕捉されちゃうと思うけど」
「ええ~~……。いやまあ私もあの子に用がないわけじゃないけど……。地図アプリの改変について聞かなきゃ……。でもやだなあ……。なんでお姉さまじゃなくて私にマーキングなんてつけたんだろう」
ちょうどその時店員がドリンクと料理を持ってきた。
テーブルの上に並ぶカツパン2つとミックスサンド。
羽衣はカツパンを手に取るとその小さい口でかぶりつく。
「うん、おいしい! ってか、お姉ちゃんにマーキングできる幽霊なんているわけないよ。霊的なマーキングなんて、修行したお姉ちゃんにつけられるわけないもん」
「そ、それで私に……。なんて迷惑な……。でもあの子、けっこうかわいかったよね。キュート系でお姉さまとは別の意味で私の好みだったよ。……もしかしたらこれはチャンス!?」
「チャンスってなによ」
零那がそう聞くと、虹子は唇の端だけあげてにやーりと笑った。
「あの子、超かわいかったから、うちの配信のコンテンツになるかもしれない……」
羽衣はミックスサンドに伸ばしかけた手を止めて呆れた顔をする。
「うわー……亡くなった人を商売にしようとしている……」
「いやでも、私たちならあの子の助けになれるかもしれないし……win-winでしょ?」
零那はそれを聞いて少し悩む。
死者を弔うってのは仏教の僧でもある山伏の仕事と言えなくもない。
でも、あの子、自分が死んでいることに気がついてなかったし、ということは自分の死に納得してないってことでもある。
薄暗いダンジョン内で、自分がもう生きていないことにも気が付かず、永遠にさまよう霊魂として苦しみつづける――。
そんなの、かわいそうすぎる。
あの子が自力で成仏するお手伝いするのもいいかもね、と零那は思った。
山伏としての修行は、別に自分のためだけにやってきたわけじゃない。
生きてようが幽霊だろうが、とにかく他人の助けとなれるための力を得るために厳しい修験の道を歩んできたのだ。
「羽衣がやりたいことで、お金も稼げて、あの子も救える……。ダンジョン配信、やらない手はないわね……」
「そうでしょそうでしょ? やろうよ、お姉さま! 羽衣ちゃんも一緒にやろう!」
カツパンをモグモグしながら、羽衣は頷いた。
「お姉ちゃんと一緒なら、いいよ。でも私、まだ未成年だしなあ。ダンジョン探索って親の許可ないと駄目なんでしょ? 山形で羽黒山の洞窟探検してたけど、そのときはあの洞窟、まだダンジョン認定されてなかったからなあ」
虹子は自信満々な笑みを浮かべた。
「そのへんは私に任せて! お姉さまはもう18歳なんでしょ? じゃあ、そうね、住民票を新潟市に移して、戸籍の附票もとって姉妹だっていう証明書と一緒に市役所と林野庁に届け出れば、お姉さまの許可でダンジョン探索できるようになるよ! ダンジョン特別法っていう法律があってね、親権者の許可じゃなくて、成人した家族の許可と監督があればOKなんだよ。いろいろ手続きあるから、そうだなあ、1週間後に一緒にダンジョン潜ろう!」




