第21話 なんか憑いてる?
次の日。
カメダコーヒー。
零那が店に入ると、すでに席を確保していた虹子がはじけるような笑顔で手を振って合図した。
「あれ、今日はスポーツウェア! 山伏じゃないお姉さまを初めて見た! こっちも素敵ー!」
「ウービーの仕事はいつもこの格好だから」
「……それに、今日は保護者同伴なんだ?」
虹子が聞く。
その通り、今日は零那の隣に、もう一人いた。
長いふわふわの髪の毛、小柄な体型。
まだまだ幼い顔つき。
半袖のブラウスにワイドパンツ姿。
「いやあ、あははは……私が保護者なのよね……。妹がどうしてもついてくるって。羽衣って言うの。羽衣、こっちはダンジョン配信者の虹子さん」
今日は羽衣も同伴してきたのだ。
零那と羽衣は虹子の向かいに座る。
「お姉さまの妹さん!? ヤバ、目元がそっくり! 最高に可愛いじゃん! よし、今日は私のおごりね! なんでも注文して、お姉さまとお姉さまの妹さん!」
虹子が言うのと同時に店員がやってきたので、
「私、ホットコーヒー」
零那が注文し、
「私はたっぷりサイズのアイスコーヒーとカツパン2つとミックスサンドとかき氷1つ」
羽衣も注文する。そして、虹子をジトッとした目で見て言った。
「はじめまして、虹子さん。お姉ちゃんの妹の羽衣です。あの、お姉ちゃんを変な道に誘わないでくれますか?」
「変な道って……あとその量、食べれる?」
「変な道です。お姉ちゃん、ほんとは山伏嫌がってたのに……。最近山伏の恰好してどこ行ってたかと思ってたら洞窟探検なんて。あと私、王様サイズの牛丼も余裕ですから」
少し不機嫌な様子でそう答える羽衣。
零那はむすっとしている妹に言う。
「だって、すごくお金稼げるんだよ? そしたら羽衣だって好きな学校行けるし、その前に予備校だって行けるし。羽衣って友達いないでしょ」
「友達いないのはお姉ちゃんも同じ」
「……うっ……。いや私のことはいいから。だから、ほら、予備校行かせてあげるし、そしたら羽衣に友達もできるし!」
「そうそう、私もお姉さまのお友達になってあげられるよ!」
それを聞いて羽衣は不信感をあらわにした表情で言う。
「お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだからお姉さまじゃないです! って、そもそも虹子さんって今いくつですか?」
「年末で21歳になるから今は20歳だよ」
「お姉ちゃんは18歳になったばかりだから虹子さんのお姉さまじゃないです! 年下じゃないですか」
「いいじゃん、友達に年齢なんて関係ないよ」
「お姉さまかそうでないかは年齢関係あると思います! それに、お姉ちゃん、いつのまにかテレビとかネットとかに出ちゃって……。恥ずかしい」
虹子はコーラをストローでずずっと飲むと、
「恥ずかしくないよ……。お姉さまはどこに出しても恥ずかしくないほどの美人だよ」
「お姉ちゃん、顔はいいけど世間様にお出しするには中身が少し恥ずかしいの!」
「ま、それは確かにその片鱗は見え隠れしてるけど……」
「でしょう?」
羽衣と虹子が零那の顔を見て頷きあう。
「いやー、顔がいいだなんて……そんなことないよーえへへ」
軽くディスられたことにも気づかず、零那は嬉しくてニヤニヤしてしまう。
それを見て羽衣は、「はぁ~~~~」とため息をついた。
と、その時、零那はあることを思いだした。
「でも羽衣、あんた、私にダンジョンすすめてなかった?」
「だから! それは! 私とお姉ちゃんが二人でやるってことで……。私を置いてほかの人と、って意味じゃなくて……」
それを聞いて虹子はニコッと笑って言った。
「そっか、お姉さまをとられると思ってたんだね……。かーわいいー! じゃあ三人でダンジョン配信やろうよ!」
その提案は零那にとって簡単に頷けるものではなかった。
「でも羽衣は受験勉強があるから……」
「だめだよ、お姉さま、羽衣ちゃんの人生は羽衣ちゃんに決めさせなきゃ! 勉強させたいのはあくまでお姉さまの《《思い》》でしょ? 羽衣ちゃんはお姉さまと一緒にダンジョン配信やりたいんだよ、ここでそれを突っぱねたら一生恨まれるよ? 進路の邪魔は一生ものの恨みだから! 決めるのは本人だよ!」
「うーーーーん……」
考え込む零那。
そこに、羽衣がポツリと言った。
「ところで虹子さん、どっかで幽霊に会いましたか? なんか憑いてる……」




