第20話 幽霊少女
それを聞いて虹子の顔色が変わった。
「それって……」
そう、虹子が遭難したときとまったく同じシチュエーションだったのだ。
「それ、いつの話?」
「つい数日前だと思う……今日、何日だっけ? スマホの電池切れちゃって……いいでしょ、最新のyPhoneなんだよ」
少女はスマホを持っていた。
でも、yPhoneファンの虹子にはすぐわかった。
それはパイナップル社のyPhone xsだ。
最新どころか、五年以上前のモデルなはずだった。
「つまり、あなたは探索者だった、ってことね」
零那が聞くと、少女は答える。
「そうだよ。私は探索者やってるの。助かったよ、地下一階までは戻ってこられたけど、出口わからなくて……。案内してくれる?」
零那は小さくため息をついて、
「待って、もっとよく見てみる。念には念をいれて。間違うと悪いから。虹子さん、ちょっと離れて」
と言うと自分の目に手をあて、真言を唱え始めた。
「オン マカ キャロニキャ ソワカ」
十一面観音の真言だ。
零那の瞳がギラッと輝いた。
じっと少女を見つめる零那。
しばらくして視線を外すと、虹子の方を向いて軽く首を振る。
「え、え、え、なに、どういうこと?」
虹子は状況を理解していないようだった。
零那はほうっと息を吐くと、少女に聞いた。
「ところで、今は西暦で言うと何年だかわかる?」
「西暦? 2018年でしょ? 平成30年。そういえば、来年年号変わるんだよね! なにになるか楽しみ!」
もちろん、年号なんてとっくに変わっている。
「………………」
また零那と虹子は顔を見合わせる。
「え? どういうこと……」
戸惑う虹子の耳もとで、零那がささやいた。
「この子、幽霊には間違いない。でも、自分が死んでいることに気づいていないわ」
「う……」
あとずさりする虹子。
「ねーねーねー、なに話してるの? お願いだから、地上まで案内してよ」
そんなことを言っている幽霊少女をよそに、零那と虹子は顔を寄せ合ってヒソヒソ話をする。
「これってどうすればいいの、お姉さま?」
「そうね、うーん、成仏させてあげる?」
零那が言うと、虹子が答える。
「待って! スマホの地図アプリを書き換えた犯人って、私も同じ事されてるんだけど……。もっと情報を得てからにしない?」
その言葉に零那は頷いた。
「そうね。でも、じっくり話すと、修行積んでる私はともかく、虹子が『憑かれちゃう』かも……」
「え、こわ……。それってどうなるの?」
「家まで付いてくるかも。霊障で体調とか精神がおかしくなる可能性も……」
「待って、やばやばやば!」
「ちゃんと準備すれば大丈夫よ。でも今は……ここを離れるのがいいと思うわ」
零那の提案に虹子は頷く。
ゴスロリ幽霊少女を振り向いて、零那が言った。
「ごめんね。私たちも迷っているの。また会いましょう。ほら、虹子さん、荷台に乗って。しっかり掴まっているのよ」
ひらりと自転車に乗る零那、後ろの荷台に横座りして零那にしがみつく虹子。
零那がペダルを踏むと、
「ムギーーーッ」
虹子がいつもの絶叫をあげた。
「ちょっと待ってよー! 置いてかないでー!」
涙声で幽霊が追いかけてくるが、零那のスピードに勝てるわけもなく、そのうちその声は聞こえなくなった。




