第19話 透明人間!?
「ひゃっ! 幽霊!?」
虹子はコーラを取り落としそうになりながら悲鳴を上げ、あたりをキョロキョロ見回す。
「あ、見えてなかったんだ。うん、そこにいるわよ」
零那はなんでもないことのように言う。
「え、え、待って、どこに? どこにいるの?」
虹子の方を指さす零那。
「そこにいるわよ。虹子さんが手に持ってるコーラのストローをくわえて一生懸命吸おうとしてるわ」
「キャァッ!」
虹子はコーラを投げ捨てると零那に駆け寄ってすがる。
「待ってうそでしょ? 私を怖がらせようとしてる?」
「虹子さん、見えないの? じゃあ見えるようにしてあげるわ」
零那は虹子の両目を片手で覆うと、
「オン マカ キャロニキャ ソワカ!」
と叫んだ。
これは十一面観音の真言である。
見えない苦しみを見えるようにする呪文であった。
幽霊というのは、だいたいが苦しみを抱えて存在しているので、この呪文で霊感のないものでも幽霊が見えるようになる。
零那が手をどかすと、虹子の目がキラッと光った。
とたんに、
「ぎゃぁぁぁぁっ!」
虹子は叫んでさらに強く零那に抱き着いてきた。
この人結構怖がりなのね、と零那は思った。
痛い痛い、ものすごい力だ、でも女の子の腕って細いわよね、なんかこう、守ってやらなくちゃって気持ちになってくる。
「見えるようになった? 虹子さんって、ダンジョン配信者なんてやってるわりに幽霊は怖いんだ……」
「昔から苦手なの!」
そこにいたのは――少女の幽霊だった。
身長は小柄な羽衣よりちょっと高いくらい。
155センチくらいだろう。
長いストレートの髪の毛、ゴシックロリータを思わせる黒い洋服。
その姿は透き通っていて、向こう側の壁が見える。
彼女は落ちたコーラを拾おうとして、でも透けているので触れられないらしく、
「ムキーッ!」
と地団太を踏んでいる。
「あのさ、そこのお嬢さん」
零那が話しかけると、その幽霊はこっちを振り向いた。
「嘘、私のこと見えてるの?」
「まあ、修行しているからね、私は最初から見えてたわよ」
「やったぁ! やっと見えてる人が見つかった!」
嬉しそうな表情ではしゃぎながら彼女は言った。
「あのね、あのね、なんか私、魔法か呪いの攻撃を受けたみたい」
「攻撃?」
「うん。ほかの人から認識されなくなる魔法か呪いだと思うんだ。攻撃を受けてから、誰も私に気づいてくれなくなって……」
それを聞いて虹子は驚きの声をあげる。
「ええ!? じゃあ幽霊じゃないじゃない! 大変! 助けてあげなきゃ! お姉さま、なんとかならない?」
零那はその少女をじっと見つめると、
「………………」
困ったような顔をした。
「あれ? お姉さま、どうしたの?」
虹子の問いを無視して、零那はゴシックロリータの少女に尋ねる。
「攻撃を受けたって、なにに? モンスター?」
「それがね、多分……人、だったと思う……。あのね、私、スマホの地図アプリを多分魔法かなにかで改変されたんだと思うんだ。地図の通り地下五階まで行こうとして、でもその階段は地下六階までの直通の階段だったの。そこで熊の化け物に追いかけられて……。逃げ回ってたらね、誰か……よく覚えてないけど、人間だった、そいつに攻撃を受けて……。で、透明になっちゃったんだよ私」




