第18話 ノリ打ち?
虹子に言われて、零那は考え込んでから答えた。
「組むって、軍団?」
「はあ?」
ちなみに零那が言う軍団とは、徒党を組むことでパチンコで勝つ確率をあげ、収益を上げる集団のことである。
「それとも出玉を共有しようってこと?」
「はあ?」
虹子はあまりに素っ頓狂な答えに狼狽した表情を見せた。
「んんん?? お姉さま、それなんの話? 軍団? 出玉? 出玉ってパチンコかなんかの話?」
「違うの?」
「違います」
最近の零那は頭の中でずっと海海パラダイスというパチンコ台の時短時音楽が流れ続けているので、すべてをパチンコに結びつけて考えてしまうのだった。
虹子はコーラのフタにストローを差しながら言う。
「私、こう見えてもトップクラスの探索者なんだよ。で、アンチも多いんだけど……。お姉さまが組んでダンジョン探索してくれたら心強いんだけどなあ」
「いや、私、洞窟探検はあんまり……。それに、お金稼がないといけないし……」
「お金?」
「そうなのよ。私、2つ下の妹がいてね、大学に行かせてあげたいんだ。あとパチンコもしたい」
「やっぱりパチンコなんだ……。親とかはお金出してくれないの?」
「親はいるけど、山奥で修行してばっかりだし、お金はあんまりないと思う……。妹は頭いいはずだし、行きたい大学に行かせてあげたいのよね」
「じゃあ、それこそぴったりじゃない!」
虹子はタブレット取り出すと、零那に見せた。
「ほら。私、登録者30万人いるダンジョン配信者なの。大学の学費ってあとどのくらいほしいの?」
「国立でも数百万円はかかる……お金は全然貯まってない……」
もっと一生懸命パチンコで勝たないと、と零那は思った。
実際はほとんど負けっぱなしなのであるが。
「ふーん、妹さんって将来なんになりたいとかあるの?」
虹子に問われて、零那はうーんと首をかしげた。
「あんまりそういうこと言わない子だからなあ……。でも大学には行ってほしいし……。あの子、将来なんになりたいんだろう……。あ! そういえば、子どもの頃、お医者さんになりたいからって、お医者さんごっこさせられたなあ……もしかしたらお医者さんになりたいのかも」
「詳しく」
「あの子は優しいから、きっと人を救う職業を目指してるんだと思うのよ」
「そうじゃなくて、お医者さんごっこについて詳しく。いつ頃の話?」
「私が5~6歳の頃かなあ」
「残念、最近の話だったら事細かに聞きたかったのに」
「この年になってお医者さんごっこはやらないわよ。……お医者さんになるのって、お金かかる?」
「そうねえ、私立だと3000万円くらいかも」
虹子の言葉に、零那はそら恐ろしくなった。
ウービーイーツの一回の配達でもらえる報酬は300円からせいぜい2000円。
何千回配達すればそれだけのお金が貯まるんだろう……。
パチンコで3000万円も稼げるわけないし……。
いや待て、気合で行けるんじゃないか?
いやあしかし3000万円か。
ラッシュを引きまくって爆勝ちしても一日10万円くらい、それを何百回も!?
「む、無理だー」
ガクッとうなだれる零那。
と、そのとき、虹子はニコーっと笑って言った。
「やっぱり、ぴったりだ! 今は7月でしょ、私が今年に入ってからこの7ヶ月でいくら稼いだと思う?」
「え、いくらなの?」
「1400万円」
「ひぅ!」
零那の喉の奥から変な音が出た。
「まあ、税金でいっぱい持っていかれるけど……。ダンジョン配信ってね、リスナーが配信者を煽って危険にさらさないように投げ銭は規約で禁止されてるんだけど、広告収入と案件でこのくらいもらえるよ。お姉さまの実力と美貌なら、3000万円なんてすぐだよ! どう?」
正直、最高に魅力的な提案だった。
3000万円なんて!
学費とパチンコにお金を使ってもまだ余るかもしれない!
あと美貌? 美貌!
ふひ、やっぱり私って美人?
「ちょっと妹と相談してみるわ……」
「ぜひそうして! ね、お姉さま、明日は外で会おうよ! じっくり相談しよう! まじで稼げるから! 待ち合わせしよ!」
「うーん、そうねえ、そんなに稼げるなら……」
パチンコやり放題じゃないの!
零那はちょっとワクワクし始めていた。
「ところで虹子さん……」
「虹子って呼んで! これから一心同体のパートナーになるんだから!」
「それ、ほっといていいの?」
「ん? どれ?」
「いや、さっきから幽霊が虹子さんのコーラを狙っているから。見えてないの?」




