表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件  作者: 羽黒楓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/46

第12話 泣きながら

「うひゃーーーー!」


 零那(れいな)の漕ぐ自転車、その後ろに乗りながら、虹子は叫び続けていた。

 ものすごいスピードで、まるでジェットコースタ―に乗ってるみたいだ。

 途中何匹かのモンスターに遭遇したが、すべて零那(れいな)の華麗なハンドルさばきですいすいと避けていった。


「階段に来ましたよ。このまま行くんで、舌かまないように気をつけて!」

「え、う、嘘、嘘でしょ、マジで!?」


 上の階に上る階段ですら、自転車で駆け上がる零那(れいな)たち。

 自転車が激しく上下し、


「あばばばばばばばばムギーーッ!」


 虹子はほんとに舌を噛みそうになって歯を食いしばった。


〈待って、ドローンより速い〉

〈自転車にドローンが置いてかれた〉

〈ニジー待ってくれー! 俺たちを置いていかないでくれー〉

〈もうツールドフランスに出た方がいいなこれ〉

〈ドローンがついていけてない〉

〈時速何キロでてるんだこれ〉

〈すごかったな、あのケルベロスを一瞬で倒したからな〉

〈こりゃ甲子園のニュースも吹き飛ぶかもしれん〉


 虹子が半日かかった道のりを、零那(れいな)の自転車はわずか二十分で走破した。

 

「すごい……この人……すごい……かっこいい……あと匂いが凄く好き」


 零那(れいな)の背中にぎゅっと掴まりながら虹子はそう思っていた。

 向こうの方に出口の明かりが見えた。

 ついさっきまで死を覚悟していたのに。

 絶対死んじゃうと思っていたのに。

 

「とーーーちゃーーーーく!」


 零那(れいな)はそう言って出口から飛び出すと、キキーッと自転車のブレーキを鳴らして止まった。


「うわ、もう帰ってきた! ……一人増えてるし!」


 さっきの若い職員が驚いた声を出す。


 虹子は自転車から降りると、改めて零那(れいな)に向き直った。

 夏の暖かい風が、零那(れいな)の長いポニーテールを舞わせていた。

 真っ白い法衣に、汚れ一つついていない。

 あれだけ自転車を漕いできたのにまったく汗をかいておらず、凛として涼やかな顔つきをしている。

 ああ、眉毛の形が最高に好み!

 こちらを見て、ニコッと笑うその表情が、傾いた太陽に照らされて、まるで後光を背負っているようにも見えた。

 不思議、女の子なのにすっごいイケメンに見える……。

 なんという……なんという……奇跡の存在!


「あの! 零那(れいな)さん……でしたっけ? あの、助けてくれて、ありがとう!」

「まあ、仕事のついででしたから」

「あんな危険な地下六階まで来てくれるなんて……私、私……」


 緊張が抜けたのか、虹子は立っていられなくなってその場に膝をついた。

 それでも、あまりに美しい零那(れいな)の顔から目を離せなくて、じっとその深い光を放つ瞳を見つめ続ける。


 そのとき、やっとドローンが追いついてきた。


「ほんとにほんとにありがとう、零那(れいな)さん! ……いえ、お姉さま……」


 虹子はついそう言ってしまう。

 自分の追い求めていた理想の女性。

 それが目の前にいるのだ。

 家族がいない虹子は、ずっと追い求めていた。

 頼りになって優しい姉を。

 困ったときに助けてくれる『お姉さま』がいたら、どんなにか人生が救われたことか、といつも想像していた。

 その理想の『お姉さま』が今目の前に現れたのだった。

 零那(れいな)は困ったように言う。


「お姉さまって……。お姉ちゃんは呼ばれ慣れてるけど……」

「ありがとう、ありがとう、ありがとう、お姉さま……。あんな危険な場所に助けにきてくれて……」

「危険な場所?」


 零那(れいな)は首を傾げた。


「そんなでもないわよ。山形にいたころは地下16階まで行ったことあるけど、それに比べたら地下6階の妖怪は弱いのばっかりだし。化け熊ちゃんとか、ワンちゃんとか、あんなの相手にするのは遊びみたいなもんでしょ?」


〈待て待て待て待て〉

〈アルマードベアとケルベロスって、S級探索者でも歯が立たない相手だぞ〉

〈そもそも、地下6階以降の探索は国も責任をもたないんだ〉

〈あのさ、人類の到達記録って地下何階だっけ?〉

〈地下12階だぞ。……あれ、この子やばくね?〉


「うそでしょ、地下16階って……?」

「いやあ、あんときは妹も連れて行ってさ。さすがに危なくて死にそうになったのよね。そしたら両親にめっちゃ叱られて、それから洞窟探検は禁止にされたのよね。私も妹を死なせかけちゃったし、反省して洞窟探検はもうやめたんだけど、今回は十万円だし特別ってことで!」


 そこで零那(れいな)はスマホを取り出し、「あ!」と声を上げた。


「もう6時半すぎてる! あーもう、いい台空いてるかなあ……。じゃあ、またのご注文をお待ちしております!」


 そう言って、零那(れいな)は自転車に乗って去って行く。


「あ、待ってお姉さま、連絡先……」

「あーー! 三日月さん、電話番号を……」


 虹子と職員が呼び止めるが、もはや零那(れいな)の耳には届いていなかった。


 三時間後。

 Z(旧トリッター)に、一つのつぶやきが投稿されていた。


〖なんかパチンコ屋で女の山伏(やまぶし)が泣きながらパチンコ打ってたw〗


 添付された写真には、パチンコ台の前に座る、山伏(やまぶし)の後ろ姿。

 パチンコ台の上に表示されているデータには、回転数:1024 大当たり:0 の文字が……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ