第113話 こんな世の中が正しいと思うのか
「決まっておろう、魔法じゃよ」
「はあ!? そんな魔法があったとして、なんの目的でその遺体を保管してたっての!?」
虹子の問いに、ハナエは静かに答える。
「儂じゃ。儂がの、魔法でその死体を保管しておいた。すべてはこの世界のため。今、世界は狂っておる。戦争はいまだあちこちで起き、なんの罪もない子供たちが殺されておる。金持ちは子供をさらい、性的に食らい、それだけではなくその肉体まで文字通り食う……。こんな世の中が正しいと思うのか?」
確かに、正気とは思えないニュースが毎日報道されている。
零那は腕の中のヤミをギュッと抱きしめた。
「そんな難しいことはわかんないわよ! 私はただ虹子さんとトメさんを助けたいだけ!」
「それで、こんないたいけな子供の幽霊を騙しているのか? お前は死んでないなど偽りを言い、魂をもてあそび、利用しているのか?」
「違うっ! 私たちはヤミちゃんのお母さんにも許可をもらって……」
「親は親、子は子じゃろう? 親ならばどんな無意味な苦しみも子供に味わわせてよいというのか?」
それを聞いて、零那の頭がカッと熱くなった。
零那自身も、親に山伏の修行を強制され、学校にもまともに行ったことがない。
同世代の友だちだって一人もいない。
虹子は初めてできた零那の『友だち』だったのだ。
小さなころから厳しい修行三昧で、かわいがられた記憶なんて全然ない。
思い出すのは冬の境内、子供には大きすぎる錫杖を握って法力の訓練をしている自分の姿。
錫杖は冷たくて、手が凍えそうだった。
本当はあったかく抱きしめてほしい年ごろに、零那を抱きしめてくれる存在はどこにもなかった。
親の興味は零那が山伏としての技量をどこまで身に付けられるかどうかだけで、零那自身には興味がなかったように思う。
実家にいたときは、ずっと苦しかった。
たまに遊びに行くヒーバーの家だけがほっとできる場所だったのだ。
親は親、子は子。
老婆の言葉が頭の中で反響する。
なにか反論しようとして、でも零那の口からはなにも言葉が出てこなかった。
「儂はな、この世にエシュ様――神の御使いである精霊様じゃ――そのお子を顕現させようと思っている。そのためにはこの大平深夜の身体が必要なのじゃ。精霊様のお子は今、身体が不自由じゃ。だから、このおなごの身体を精霊様のお子に差し上げ、この世に顕現していただく。精霊様のお子は狂った世の中を正してくださるじゃろう。神の意志による統治じゃ。だれも傷つけず、傷つかない理想の統治が始まろうとしているのじゃ……」
そこに、羽衣が叫んだ。
「ヤミちゃんを利用しようとしているのはあなただって同じじゃない! ご遺体をそんな風に使うなんて……!」
「大平深夜は不幸な事故によって死んだ。そのこと自体は儂もどうしようもない。深夜は死に、その魂は身体から離れて幽霊となった。霊的に言えば、この身体はもはや深夜のものではない。ずっと儂が保管してきたのじゃ、霊的な所有権はもはや儂のもの――いや、エシュ様のものとなっておる」
実際のところは、ヤミは彩華に騙されて故意に殺されたのだが、零那たちはそこまでは知らない。
虹子が小銃のコッキングレバーを引いて老婆を睨んだ。
「霊的にどうとか知らないよ! その身体、ヤミちゃんに返してよ!」
「ならん」
老婆は答える。
「もはやこの身体はエシュ様のもの。エシュ様のお子のものだ。今から儂はお前――青塚茜の孫を殺す。その魂の力を持って、お子の魂をこの身体に移すのだ――」
ヤミが零那の腕に抱き留められながら叫んだ。
「それ、私の! 私の身体! 返して! 私は家に帰るの! 返して! 私、私、死んでない……! だって生きてるもの……! だって、だって、だって……」
そこに、後ろからやってきたトメが零那に言った。
「山伏。これ以上の問答は無用だ。ヤミは私に任せておけ。私が押さえておく」
そう言って自分の死体に向かって手を伸ばし、駆け寄ろうとしているヤミをトメが抱きしめる。
「大丈夫だ。ヤミ、私たちに任せてほしい。……頼む。……山伏、とにかく、あいつをぶっ飛ばしてやれ。話はそれからだ」
老婆はそれを聞いてしゃっくりのような笑い声をあげた。
「ひっひっひっ。儂をぶっ飛ばす? そんなことができるかの……?」
「できるわ」
零那は返す。
「あなたの霊力は感じる。確かに研ぎ澄まされていて痛いほど。でも、年齢には勝てないわ。若いころはどうだったかわからないけれど、今のあなたは私には勝てないわ」
「ほう、そうかの? そうかもしれぬの。では、儂は戦わぬ。その代わり、この子に戦ってもらうことにするかのお。お前にこの身体を傷つけることができるか?」
そう言ってから老婆は静かに呟いた。
「Laroyê。 Exu、Exu。 É、Mojubá」
とたんに、横たわっていたヤミの死体が発光を始めた。
そして、死体がふわっと宙に浮くと、そのまま直立を始める。
血液の躍動がまったく感じられない真っ白な身体。
身体を覆っていた布がハラリととれて、床に落ちた。
死体の目が開いた。
そこには光はなく、漆黒の闇色しかない。
「ふふふ、その死体をお前に傷つけられるか?」
老婆が楽しそうに言う。
「私の身体! 私の身体を勝手に動かさないで! やめて!」
ヤミの悲痛な声。
そのヤミが自分の死体に駆け寄ってしまわないように、今はトメがヤミを抱きとめている。
零那は錫杖を握りしめた。
力が入りすぎて手が痛いほどだった。
「卑怯者! やっつけてやる!」
〈どうなってんだ?〉
〈なんか画面にモザイク入ってるぞ〉
〈AI判定でモザイクが自動で入ったみたい〉
〈結局いったいなんだってんだ〉
〈全然状況がわからん〉
〈あの死体って結局だれのも〉
その時だった。
耳をつんざくような音が鳴った。
なにか機械の焦げる臭い。
小さな黒煙がたちのぼった。
背後で零那たちを撮影していたドローンがいきなり何かに貫かれて撃ち落とされたのだ。
同時に、つららの声が聞こえてきた。
「後ろからもなにか来るよ!」
零那がそちらに目をやると、そこにいたのは異形の怪物だった。
★途中でもどうかお願い致します!★
お読みいただきありがとうございます!!!!!
少しでも面白かったとか続きが気になるとかと思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックすればできます!
今後とも皆様に楽しんでいただけるような作品にしていきたいと思ってます!!
どうかどうかよろしくお願いします!!!!!




