第110話 横たわる身体
零那たちの目の前には、下へと降りる階段があった。
ヤミの持つ刻印につながる霊力をたどり、ついにここまでたどりついた。
「ここが、地下20階ね……」
零那にとってもすでに初めての深さとなっている。
ここに来るまでも、何度かモンスターとの戦闘になった。
だがそれらをすべて撃破してきた。
「みんな、行くわよ。準備はいい?」
零那は自転車に跨ったまま、みんなの方を振り向いた。
「うん、お姉ちゃん! ばっちりだよ!」
羽衣がツノをつかんだままそう答えた。
ツノ――それは、羽衣が跨っている、モンスターのツノだった。
艶やかに光る真っ黒な身体、六本の足、立派なツノ。
しかしその目は昆虫が持つ複眼ではなく、哺乳類と同じ、白目が目立つギョロギョロとした眼球だった。
巨大なカブトムシである。
羽衣が一度、完全に支配されて零那と闘わされた、あの蟲使いである。
「まったく、こいつ!」
羽衣がカブトムシの頭を殴りつける。
カブトムシはイヤイヤをするように首をふり、その異様に大きい目から涙を流した。
「あのねあのね、あんまりいじめちゃだめだよ? モンスターだって生きてるんだよ?」
つららの言葉に羽衣はもう一度カブトムシの頭をポカリと叩いて、
「だってこいつのせいで私、お姉ちゃんにぶん殴られたんだもん! 許せないよ! 今後こきつかってやるからね!」
〈結局ここまであっさりとたどり着いたな〉
〈すげえよな、あの蟲使いなんて完封してたもんな〉
〈ほかにもとんでもないモンスターと闘ってたぞ〉
〈まさかヴァンパイアをあんな方法で倒すとは……〉
〈いやいや俺はデスドラゴンの首をへし折ったあの戦いが一番すごかったと思う〉
「まあいい、さっさと行くぞ」
すでに短剣を抜いて戦闘準備に入っているトメ。
それを見て虹子が言う。
「……ってかトメさん、すっかりショートカットになっちゃったね……」
「自慢のツインテールは溶岩の熱で燃えたからな。これだけ残ってくれただけでも御の字ってものだ」
トメは、焼け死にそうになった時、その髪の毛も一緒に燃えていた。
頭皮の火傷は軟膏で回復したが、髪の毛まではすぐに復活というわけにはいかない。
「まあ、そのうち生えてくるさ」
零那はみながリラックスしているのを確認して、ペダルに足を乗せた。
「じゃあ、行くわよ! 一気に駆け下りるわ! コウオツヘイテイちゃんたち、GO!」
四頭の牛が駆け出し、零那たちは階段を駆け下りて行った。
階段を降りていく途中でも、マナの濃度が高くなっていくのを皆が感じた。
空気がドロリとしている。
零那は自分の額に汗が流れてくるのを感じて驚いた。
――私でも、緊張するのね……。
当たり前である。
ここは人類未踏の地下20階。
そしてタイムリミットが迫っているのだ。
「もう新装開店には間に合わない! でもパチンコ店の新装開店って、実は二日目が勝負なのよ! うおおおおおおお!」
階段を降りきると、そこは一本の長い通路だった。
数百メートル先に、なにかが見えた。
零那はそいつの霊力を感じ取る。
「……いるわね……」
だけどおかしい、と思った。
ラスボスが彩華なのかどうかはまだ零那たちにはわかっていない。
しかし、零那が感じた霊力は、想定よりもかなり低いものだった。
――それならそれで好都合、鎧袖一触にしてやるわ!
すこし進むと、すぐにそいつの姿がはっきりと見えた。
いや、『そいつら』であった。
ひとりは、干からびたゾンビのような見た目をしている。
だが着ているのは似合わない鮮やかなピンク色のドレスだ。
もうひとりはそのかたわらで椅子にすわっている、しわくちゃの老婆。
たくさんのレースで彩られた真っ白な服を身に着け、頭にはターバンのような白い布が巻き付けてある。
首には赤と白のビーズで作られたネックレスを何重にも巻いてぶらさげている。
さらには。
そいつらの後ろには豪華な祭壇があった。
そして、そいつの前に、寝台のようなものがあり――。
一人の少女の身体が横たわっていた。




