第106話 嫉妬の炎
「ひどい……」
虹子のケガを改めて見て、零那は呟いた。
右足が膝の下のところからちぎれて取れてしまっている。
肉と血、そして白い骨が見えてしまっている。
さきほど零那が施した治癒法術によって、全身状態は安定していたが、このちぎれた足はそのままだ。
「羽衣! 軟膏、まだある!?」
「さっきほとんど使っちゃったから……。まだ少しだけ……」
零那は羽衣から軟膏の入っている壺を受け取る。
トメの火傷を治癒するのにほとんど使い果たしていて、底の方にへばりついているのが少しあるだけだ。
「これだけじゃ足りないわ……ほかに何かなかったかしら……虹子さん、とりあえずこれ、食べて。ヒーバーが漬けた特別製の梅干しよ」
零那は虹子の口の中に梅干しを突っ込む。
「ムギューッ!」
そのあまりの酸っぱさに虹子は顔をシワだらけにして叫ぶ。
「これ食べると霊力が回復するから、我慢して食べて! 一粒でごはん2合はいけるすっぱさだけど……」
羽衣が顔をしかめて、
「見るだけで口の中が唾でいっぱいになるよね……まあ、おいしいを通り越しているレベルの酸っぱさとしょっぱさだけど……」
そう言いながらクーとアルフスのクチバシにその梅干しを突っ込んでいる。
「ニャオー!」
二羽の孔雀は抗議の鳴き声をあげていた。
「とりあえず、足をくっつけよう」
零那が言うと、虹子は不安そうに聞く。
「くっつくの?」
「大丈夫。そこの雪女ちゃんの首だってくっついたんだから、足なんてよゆーよゆー」
「モンスターと一緒にされても……」
「まあ、まかせてちょうだい!」
零那は壺の底に残っていた軟膏を丁寧にこそげ取ると、虹子のちぎれた足の断面に丁寧に塗り付けていく。
いつの間にか荷台を降りてそばに来ていたヤミが、その断面を見ながら、
「うわーグロ……」
などと言っている。
「ヤッちゃん、人の身体を勝手に見といてそういうこと言うの、駄目よ。言われた方は傷つくんだから、虹子さんに謝っときなさい」
「あ、うん、ごめん」
骨は綺麗に折れてはいなくて、その切断面はグチャグチャだ。
少ない軟膏を薄く繊細な手つきで塗っていく零那。
「あれ、つららのときと塗り方が違うよ?」
つららがなんだか不満そうに言っている。
「まあそこは……ね、くっついたからいいじゃない」
などと言いながら、零那は虹子のちぎれた足を慎重に合わせていく。
さらに牛王宝印のお札をその上に貼り付けた。
「よし、じゃ、羽衣も手伝って!」
「うん、お姉ちゃん!」
零那と羽衣が伊良太加念珠をジュリジュリと音をたててこすりながら、トメのときと同じように真言を唱え始めた。
★
「コーポ・デ・スキュリがやられたわ……。瞬殺だったわね……」
彩華はギリッと歯を食いしばった。
「思ったより……いえ、想定をはるかに超えた強さねえ……」
焦りの表情を浮かべる彩華。
「特SSS級とSSS級……。そんなレベルじゃないかもしれない……。私よりもはるかに強い魔力を持っているかもしれない……」
彩華の頭にふと嫌な思いがよぎった。
――もしかしたら、この子こそが、『奇跡の子』なのでは?
マクンバで教団のリーダーをしている老婆に『奇跡の子』などと言われて、その気になっていたけど。
自分は石の赤ん坊しか産めなかった。
もしや、彼女ほどの力がある人間こそ、精霊の伴侶となりその子を産むべき存在なのでは?
彩華の胸に、嫉妬の炎が燃え始めた。
――殺す。
かならず、殺す。
どんな手を使ってでも――。
彩華は祭壇の前にひざまずき、彼女が信仰する神の御使いであり精霊でもあるエシュに祈りを捧げ始めた。
「エシュ様……私にお力を……。あの女を殺し、魂の力を奪い、あなた様と私の子を復活させるためのお力を……私にお与えください……」




