第103話 ソニックブームと牛
「ニャオーーーーーッ!」
飛翔してきた二羽の孔雀。
一羽はピンク色をした粒々の光を撒き散らし、もう一羽の身体からはさまざまな色に輝く小さな五芒星が線香花火のようにパチパチと爆ぜていた。
二羽は一気にキブングに突っ込んでいく。
音速を超えるミサイルのようなものである。
「グギャァッ!」
虹子を押さえつけていたキブングは、二羽の孔雀に弾き飛ばされて床に転がされた。
だがすぐに体勢を立て直し、自分を吹っ飛ばしてそのまま向こうへと飛んでいく二羽を睨みつける。
二羽の孔雀は絡み合いながら向こうの方で方向転換し、再びキブングへと向かってくる。
その光景を見ながら、虹子は魔導銃を手から取り落とした。
「来た、来た、来た……お姉さま……ありがとう……ありがとう、クーちゃん、アルフス……」
孔雀たちの邪魔にならないよう、虹子は自分の足を抱えたまま這いずり、壁際の端っこに移動する。
「グゲォォォォォッ……」
キブングが唸り声をあげて二羽の孔雀に背中を向ける。
背中には大きな人間のような口が開いている。
そこからも咆哮をあげた。
「クォォォォォォォォッ! ……クハァッ!」
ドンッ! という地面まで揺るがす轟音とともに、その口から青い光弾が発射された。
それはかすかな山なりの弾道で孔雀に向かう。
だが孔雀たちはそれをヒラリとかわすと、
「ニャオオオオオオオーーーーーーーッ!」
とけたたましい鳴き声を上げ、二羽がツイストする軌跡を描きながら、キブングの背中に開いた口の中へと飛び込む。
次の瞬間には口とは反対、腹側から飛び出した。
キブングの内臓が床にまき散らされた。
「ギ……グ……?」
キブングは信じられない、というような表情で自分の腹部を見て、そのままくたりとその場に崩れ落ちた。
「ニャオオオッ」
孔雀たちはさらに鳴き声を上げる。
その光景を見ていたアルマードベアは恐れをなしたか、孔雀たちに背中を向けて逃げ出した。
だが、その背中に再び突っ込んでいく孔雀たち。
虹子の銃弾ではまったく歯が立たなかった鎧のような体毛は、クーとアルフスの前ではなんの意味もない。
二羽の突撃にアルマードベアは逃げおおせることもできずにパッと血しぶきに変わった。
あとに残るのは、バラバラになったアルマードベアの肉片と床や壁を汚す血液。
「にゃおっ」
二羽はスピードを緩め、羽ばたきながら虹子の方へと向かってくる。
「あはは、クーちゃん、アルフス、あんたたち強すぎだよ……最高だよ……」
食いちぎられた自分の足を抱えながら、二羽の神々しい姿を眺める虹子。
自然と涙が頬を伝う。
「ありがとう……」
「にゃおんっ」
孔雀たちは優し気な鳴き声をあげて、ゆっくりとゆっくりと虹子の方へと飛んでくる。
虹子は大きく息を吐く。
よかった、とりあえず助かった……。
あとはお姉さまがここに来てくれるまで待っていればいいんだ――。
その時だった。
何か細長いものがどこかから伸びてきて――。
虹子に向かって飛ぶアルフスの身体を床に叩き落した。
「ギャウッ!」
そこにいたのは――。
全身から蛇が生えている、人型のモンスターだった。
蛇たちは人間の腕の太さほどもあり、コブラのような獰猛な牙を見せている。
アルフスを叩き落したのはその蛇の中の一匹。
数メートルも伸びて油断してゆっくり飛んでいたアルフスを不意打ちしたのだ。
「ギャ……ギャ……ギャ……」
苦しそうな声をあげて床でピクピクしているアルフス。
「ニャオオッ」
クーが怒りの声をあげてそのモンスターへと向かっていく。
「シャーッ!」
蛇人間の全身から生えている大蛇たちが同時に威嚇の声を出す。
このモンスターの名前はコーポ・デ・スキュリ。
ポルトガル語で『蛇の身体』という意味である。
彩華の子飼いモンスターの中でも破格の魔力を持つモンスターであった。
「ニャオッ!」
クーがグングンと加速し、パンッ! というソニックブームとともに音速を突破する。
そしてそのままコーポ・デ・スキュリに突っ込んで行く。
しかし。
コーポ・デ・スキュリの全身から生えている大蛇たちもそれを迎え撃つ。
蛇どもはその体長を自在に変えられるという生態を持っていた。
何メートルもの大蛇は襲い掛かってくるクーに向かって、
「シャーッ!」
とその首を激突させた。
一匹、二匹、三匹……。
いやもっと。
なん十匹もの蛇たちがクーの勢いで破砕されていく。
ちぎれた蛇の首が床に落ちてのたくった。
だが、そこまでだった。
クーの勢いは途中で止められ、いつのまにか無数の蛇たちにからめとられていた。
「グ……ギャ……」
締め付けられ、声にもならない声をあげる孔雀。
身にまとっていたピンク色の粒はいまや消え去っていた。
それを見ていた虹子は、自分の顔からサーッと血の気が引くのを感じた。
いや、足からの出血のせいだろうか……。
虹子が再び絶望に突き落とされそうになった、次の瞬間。
通路の向こうから、また何かがやってきていた。
それは、異様な光景だった。
四頭の牛だった。
黒毛の牛が四頭、こちらへ向かって走ってくる。
そしてその牛には綱が結び付けられていて、それが引っ張っているのは自転車、さらには自転車トレーラー。
パン! パン! パン!
またソニックブームの音が鳴った。
「アルフスーーーーーーッ!!」
という羽衣の声、
「いーーーーーやっほーーーーー!」
というヤミの声、
「首がーーーっ! すっとんじゃうよおおおおお!」
というつららの声、
「お待たせいたしましたああああああああ! ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーービーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイーーーーーーーーーーーーーーーツでええええええええええす!」
という零那の声。
もちろん、零那たちは音速を超えているのだから、その声は、零那たちが虹子の前を通り過ぎてから、遅れてやっと虹子の耳に届いた。
その時には零那たちが巻き起こした風と衝撃波で虹子の顔がおもしろいことになっていたので、虹子にはそれを聞く余裕などなかったのだが。




