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狂った世界の壊し方  作者: 深山モグラ
一章:一輪の花を咲かせて 前編
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異能力の使い方①

 空跳の異能力が発現してから半年以上の月日が経過した。異能力の解析も完了し、運用訓練を行っている空跳は今、第一訓練場の中央に立っている。


 花屋に渡された黒い戦闘服を纏い、両手に一本ずつ、腰には複数の訓練用短剣を差して戦闘準備は万全に見える。

 対面にいるのは執行部第四部隊の隊長、コードネーム千血だった。空跳と同じく黒い戦闘服を着こんでいるが腰に差されているのは一振りの木刀。髪をポニーテールで纏め、強気な視線で空跳を見つめる。


「両者準備はいいか?」

「はい」「ええ」


 毒蛇の問いに二人が同時に答えた。

 今から始まるのは模擬戦だ。空跳の異能力は調査から一月で殆ど解明された。それも組織の頭脳と呼べる集団のおかげに他ならないが、それからというもの空跳は能力運用の訓練を続けて来た。そして今日、最終試験が行われる。


「では......始め!」


 開始の合図と同時に空跳の姿が消えた。

 ガンと得物同士が擦れ合う音がなる。気づけば空跳は千血の背後に移動しており、短剣を振りかざしていたのだ。しかし、即座に対応した千血が振り返り、刀を振るって攻撃を防いだ。

 そして、空跳の姿が瞬きの間に霧のように掻き消え、気づけば千血の背後にまたも現れる。だが、これも千血は刀を横に振るうことで対処する。

 それでも千血の攻撃が決まる前に空跳は異能力を発動させる。転移で千血の頭上に跳び、短剣を突き刺す。千血はヒラりと半身をズラして攻撃を避け、上段に構えた刀を振り下ろした。

 振り下ろされ、床に触れるギリギリで止まった攻撃を前転することで回避した空跳は体勢を整えてから床を強く蹴ることで後方に退く。

 それを見て千血は空跳との距離を詰める。空跳の表情が変わった。今が好機だと言わんばかりに転移を発動し、千血の真横に移動。そのまま回転蹴りを見舞う。千血は攻撃を避けるため咄嗟に判断で横に跳ぶ。


 手を止めた千血は意識を先鋭化させる。何故なら視界から空跳が消えているからだ。直感に従って刀を振るうと耳あたりの良い音を響かせながら刀と短剣の鍔迫り合いが演じられた。

 それから十秒もの間、空跳が転移を連続で使用し、カンカンカンと得物同士がぶつかり合う音が響く。


「攻撃が単調よ。折角の能力がもったいないわ」


 空跳が引き、距離を離したのを確認すると千血は刀を腰に戻した。今の攻防において千血は息一つ乱していない。対して空跳は何度跳ぼうと攻撃は全て受け止められ、無理な体勢から繰り返される跳躍で膝が笑い始め、呼吸も荒い。


「でも大分使いこなせてるわね。最初の時は直ぐに根を上げたもの」

「これも皆さんのおかげです」


 調査によって空跳が行う転移の絡繰りが判明した。空跳の転移は原点つまり、とある中心を基準とする座標系に依存していた。そのため近距離、遠距離に関わらず膨大な魔力を消費していたのだ。

 つまり目視によって転移する場所を指定しても原点からの距離は大して変わらないため膨大な魔力を消費しているといった理論だ。そして、この理論が正しければ座標の原点は地球の中心となり、理論上は三メートル先に転移するのも地球の裏側に転移するのも同じ魔力量で済む。

 さらに能力訓練の中で空跳は単に元の位置からの移動距離に応じた転移も行使できるようになっていた。それ故に千血との攻防で何度転移を繰り返しても魔力切れを起こすことなく戦い続けることが出来ている。


「行きます!」


 空跳が駆け出し、千血との距離を詰める。異能力に頼らない純粋な移動を選択したことで千血は僅かに眉を顰めた。しかし、隊を預かる身故か直ぐに迎撃態勢に移る。


 再び空跳の異能力が発動した。姿が唐突に消え、現れる。出現箇所は千血の五メートル手前だ。先のように転移で対象の直ぐ傍に現れて攻撃を仕掛ける戦法ではないと見抜き、千血は刀の柄に手を添え、腰を落とす。

 千血の行動を見て空跳は勢いを緩めた。作戦がバレたと感じたからか思わず舌打ちしそうになるのを耐えて次の行動を練る。

 空跳は通常の攻撃と転移による攻撃を織り交ぜることによって千血のミスを誘発しようとしていた。だが、隊長格にその程度の小細工が通じるはずがなかった。


「シッ」


 空跳が踏み出し、数歩進んだところで千血の背後に転移する。慣性により身体は前に進もうとするため、それに逆らわず後方の千血を視界に定める。それから片方の短剣を投擲し、視線を千血の上空に向けた。

 対して千血は足音に惑わされることなく自身の背後に空跳が転移したのを察知し、投げられた短剣を刀の一振りで弾いた。そして返す刀で自身の上空を斬りつける。


「あっぶない!」


 不意を突けたと思っていた空跳は転移と同時に迫り来る刃に驚く。それでもギリギリのところで短剣を間に挟み直撃を受けるのだけは回避した。


「悪くないわ。でも経験不足ね」


 空中にいたため衝撃を和らげる手段を持たない空跳は弾き飛ばされる。そこに追撃を仕掛けるべく千血が動き出していた。

 体勢が不安定だ。このままでは千血の攻撃を防ぐことは出来ない。迫り来る木刀を目の当たりにしながら未だ冷静さを保つ理性が異能力を使えと訴えかける。

 刹那、目視による転移が発動した。その差僅かコンマ数秒。空跳が元いた場所に刀が通る。

 喰らえば負けていた。冷や汗を流しながら千血を窺う。どうやら向こうから攻める気はないようだ。空跳の息が安定するのを待っている。だが、油断しているわけではないだろう。今と同じ攻め方をしたら今度こそ負けると空跳の本能が警鐘を鳴らしているのだから。


「空跳の異能は常に先手を取れる能力よ。相手が反撃してきても死角に転移すればいいだけ。おまけに攻撃もできる。対人戦では恐ろしい能力ね。でも圧倒的に経験が足りない。無意識レベルで能力を使いこなせないと足元掬われるわよ」


 異能力訓練の間、空跳は執行部の面々と模擬戦を幾度となく行って来た。その勝率は七割に届くだろう。千血の言葉通り空間跳躍と名付けられた異能力は対人戦において無類の強さを誇っていた。

 負けた試合は広範囲に異能力を使用できる者、そもそも物理攻撃が効かない異能力者が殆どだ。だからこそ最終試験の相手に千血を選んだのだ。

 千血の異能力は血液操作。読んで字の如く血液を操る異能力であり、操作系に分類されるが範囲攻撃はそこまで得意としていない。


 勝てはしないまでも良い所までは行けるのではないかと考えていた。だがどうだ。蓋を開けてみれば自慢の転移もその悉くが防がれてしまい、自身の経験不足を指摘されるしまつ。挙句の果てに千血は未だ異能力を使っていない。完全に天狗の鼻を折られてしまった。


「でも短い期間でここまで異能を扱えるのは天才といっても良いわ。だから全力で来なさい。異能()の使い方を教えてあげるわ」


 千血の雰囲気が変わった。先ほどとは違い殺気すら感じるほどだ。

 空跳は額から汗を垂らす。当てられた殺気が動くことを抑制してきたからだ。少しでも甘えた動きをすれば斬り捨てられる未来を幻視してしまう。

 それでも空跳が動けたのは彼の心持ちが恐怖を上回ったからに他ならない。




【Tips:sandersoniaの執行部は主戦力となる十部隊とそれらを補佐する遊撃隊で構成されている】

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