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狂った世界の壊し方  作者: 深山モグラ
一章:一輪の花を咲かせて 前編
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第九部隊

 空跳が雷雲龍に遭遇してから幾つかの月日が経ち、歳も一四も超えた。その間、七つの任務に同行し、組織の一員として動くことで仲間との共闘というものを学んだ。そして、今回は八度目となる任務がエンキから言い渡された。


「今回はよろしくお願いします、雷剣さん」

「こっちもよろしく頼むっす。詳しい話は向こうでするんでついて来て欲しいっすよ」


 雷剣のコードネームを持つ男は毒蛇と同じ程の背丈だが髪は金に染められ、雰囲気も軽い。それでも纏う気配は熟達したソレだ。


「空跳はどの隊と任務をこなしたんっすか?」

「基本は毒蛇さんの所です。後は戦鬼さん、音撃さん、リパルスさんです」

「任務は迷宮内の魔物討伐っすよね?」

「場所は違いましたけど全部深度三の迷宮でした」


 雷剣は事前調べの情報が間違っていないかを確かめながら目的の場所まで空跳を案内する。そこには四人の男たちが席に座り二人の到着を待っていた。


「彼らが第九の隊員っす。一応、右から順にレオことレオパルド、レート、叶、糸々っす」


 雷剣の紹介にそれなら一応と自己紹介を行う。空跳も全員のことを知っていたので簡単にコードネームを伝えるだけで終わったが彼ら五人と今回の任務を行うことになっている。


「早速任務の話しっすけど今回はバジリスクの討伐っす。場所は奥多摩の林道から森の中。大まかな場所は目撃情報から検討がついてるみたいなんで問題ないっすよ。質問あるっすか?」

「バジリスクの特性にはどう対処するんですか?」

「そこは問題ないっす。実際に戦う俺、レオ、レートは運営部から貸し出される魔道具を使って対策するっすから。空跳には兵種以下の相手と警戒を頼むっす」


 本音を言えば魔鶏蜥蜴(バジリスク)との戦闘に参加したかった空跳だがこれまでの任務から長種の魔物を相手にするには実力が足りていないことは分かっている。なので文句はない。


「簡単に行動の打ち合わせをするっすよ」


 それから数十分後、任務の内容を確認し終えた雷剣たちはその場を後にした。明日に備えて各自準備するためだ。空跳は何時でも任務に同行出来るようにと準備は既に完了していたため暇が出来てしまう。


「バジリスクについて少し調べておこうかな」


 誰かに言ったわけでもなく、独り言を呟くと部屋を出た。向かった先は近くにある情報閲覧室だ。そこには一般的な知識から専門知識、組織が集めた情報まで揃っている。


 情報閲覧室に向かいながら今までのことを振り返る。大鬼に醜態をさらし、雷雲龍に出会った日から大分成長した感じはする。今なら大鬼相手に圧勝出来ないにしても異能力を使って攻撃を避けることが出来る。隙を突けば魔道具を使って負傷を、あるいは勝利を掴むことも出来るだろう。

 さらに、今回を除いて七度も任務をこなしている。主に魔物を相手したのは空跳ではなく、毒蛇などの隊員だったとしても何種類もの魔物に出会い、直接その戦闘を見られたことは大きな糧になっているはずだ。


 それにと空跳は手を握った。ただ、任務の様子を見るために付いて行ったわけではない。迷宮での戦闘には空跳も協力していた。そのおかげもあって雑種なら何十の群れでも捌けるし、兵種を相手にしても安全に勝利を掴める。

 そして、そこで手に入れた報酬と素材で色々と装備や小道具を新調した。探索者基準なら単独で深度三の迷宮に立ち入ることが許される二級相当の実力はあると見てよい。


「奥多摩近くなら亜人系と生物系、後は植物系の魔物は調べておいた方がいいかもしれない。その前にバジリスクっと」


 目的の場所に辿り着いた空跳は早速設置された端末を起動させて魔鶏蜥蜴についての情報を検索した。すると画面が切り替わり、同時に何件も検索結果がヒットする。空跳はそのタイトルをパッと見て分かり易そうなものを開いた。


 そこには多くの情報が記載されていたが要約すると『魔鶏蜥蜴、長種中級爬虫類系統に分類される魔物。姿は蛇そのものだが牙が肥大化している。また大きさは小さいものでも全長五メートル、高さ三〇センチを超え、今までで確認された最大個体は全長二〇メートル、高さ一メートルにも及ぶ。非常に硬い鱗に覆われており、またその鱗は鮫肌のように絡みついた物を削り取ることを可能とする。しかし、一番の脅威は石化だ。魔鶏蜥蜴は牙を突き刺した者を石のように固める液を分泌することで知られており、この成分は未だ解明されていない』となっていた。


「バジリスクについてはこんなものかな」


 調べた結果、魔鶏蜥蜴についての知識は問題ないと判断した空跳は奥多摩迷宮周辺に出現する魔物について調べ始めた。地上に出現する魔物は迷宮とは違い多種多用だがその場の環境にある程度の関連がある。つまり森に水棲の魔物は滅多に出現しないという訳だ。


「可能性が高いのはブレードタイガー、オーガ、アイビーゴリラとかかな」


 データベースを漁り過去の討伐情報から出現傾向が高そうな魔物をピックアップする。深度三以上の迷宮でない限り、長種でも上級の魔物は殆ど地上に出現しない。十数年前は中級の魔物も地上に出現することは偶にしかなかったのだがその常識は崩れ始めている。


「オーガとブレードタイガーは近接、アイビーゴリラは広範囲型。俺ならどう戦えばいいかなぁ」


 もし魔鶏蜥蜴以外の中級の魔物と戦う事態になったとしてもやはり空跳が主体となって戦うことはない。あったとしても補助程度だ。しかし、戦闘の様子を想像するだけなら被害も損害も無い。ある者は妄想だと笑うだろう。それでも飽きることなく情報を読み漁った。




【Tips:運命は神のみぞ知る。例え未来視を可能とする観測者の異能力であれ、見ることが出来るのは複雑に分岐し、存在を許された平行世界だけなのだから】




 翌日、雷剣は集まった面子に空跳がいることを確認すると任務開始を告げた。


 会議室に集まった者たちは全員が黒装束で闇に紛れ込むのに最適な戦闘服を纏い、顔を隠すために認識阻害魔道具(ペルソナ)を着け、連絡をスムーズにするための通信魔道具(ケイオス)を装着している。それ以外に個人差はあれ全員が得物を携帯していた。


「運び屋から連絡を受けたっす。今日もササっと終わらせて飲むっすよ」

「おう、それがいい」

「空跳は飲めないぜ」

「俺はいいですよ」

「美味い魔物でも出ればいいですけどね」

「良い肉とか来てくれればラッキーだよな」


 中級の魔物が相手とはいえ雷剣たち第九部隊に不安はない。何故ならこの程度の相手なら何度も任務でこなしているからだ。

 上級の魔物と戦ったことがある雷剣たちから言わせれば長種でも中級と上級には小鬼と豚鬼程度に差がある。だからこそ任務をつつがなく終わらせ至福の一杯を仲間と分かちあうのだ。それが命を賭けて戦う者たちの心休まる時間だった。


 会議室がある区画から拠点の最上階、転移区と呼ばれる階層に辿り着いた雷剣たちは転移区の一角に不自然に設置されたドアを目指していた。

 空跳は雷剣の後を追いながら辺りを見回す。今日は第九部隊以外にも任務に出る者たちがいた。なにも組織が受ける依頼は殺伐としたものだけではない。装備の作成、魔道具の解析、異世界人の情報なども取り扱っているのだ。


 空跳の視界に灰煙が映った。しかし、光と共にその姿を消してしまう。転移の魔術刻印が刻まれた魔道具を使用した結果だ。それは二対一組の接続陣と呼ばれる魔道具で空跳が拠点から八王子都市に移動した時にも使われた。

 転移の魔道具は非常に珍しく迷宮から産出された際は全て国が買取るほどだ。そのような代物が何故sandersoniaにあるのかといえば運営部統括、花屋の仕業だった。しかし、幾ら花屋といえ量産することは出来ない。そのため拠点と各主要都市を結ぶために接続陣は用いられている。


「それじゃぁ行くっすよ」


 雷剣は辿り着いた不自然なドアを潜る。その扉はどういう訳かポツリと佇んでおり、扉が開いて内側の様子が見えるのにドアの背後に回れば扉はしまっている。偶にそのドアを使用している空跳も雷剣たちの後に続いた。

 扉を抜けた先は執行部の区画にある訓練場よりも広い全体が真っ白な空間だ。そこには魔物の死体や防具、薬などが置かれている。其処は執行部遊撃隊に所属する運び屋の異能力によって齎された空間だった。


「お、開いたっすね」


 雷剣の言葉と同時に部屋の一点に黒が生じ、点は次第に広がり二メートルほどの円を床と垂直に展開した。この光景も何度も見れば驚かなくなる。雷剣たちが漆黒の円を潜って行き、最後に空跳も同じように円に入る。すると一瞬にして景色が変わった。

 物が雑多に置かれた白い空間は太陽の日差しが強く降り注ぐ平原となり、前方には林がある。そこは幾分か前に毒蛇と訪れた場所だ。


「帰還の際は連絡を寄こせ。時間が合えば回収する」

「了解っす」


 雷剣は黒の円を出てすぐ傍にいた男と軽く会話をする。その場にいる全員がペルソナを着けているため顔は窺えないが雷剣が話をしている男が運び屋だ。


「次は渋谷迷宮か?」

「ああ、第一部隊の回収。その後は仙台な」


 空跳が出てきたのを確認した運び屋は漆黒を消すと後ろにいた男に話しかける。その者は運営部に所属する運び屋の相棒だ。


「俺らも行くっすよ。速攻っす、速攻」


 雷剣はそう告げると林に向かって進んだ。




【Tips:高度な魔術が刻印された魔道具を異能力で作製する際、その対価は当然ながら高くなる】




 空跳含む第九部隊が林に入ってから二時間が経過した。周りの景色から読み取れる限り既に林ではなく森といっても良いかもしれない。情報が間違っていたのかそれとも他の要因か、理由はどうあれ予測していた場所に魔鶏蜥蜴はいなかった。


「これは夜までコースっすね。情報部に連絡したっすけど向こうも手一杯みたいっすから」

「バジリスクが大きく移動したに一票」

「地道に探すしかないだろ」


 雷剣、レオパルド、叶が横に並んで先頭を行き、糸々が真ん中、空跳とレートが後方の警戒を務めている。残念ながら第九部隊に索敵を得意とする者がいないため魔鶏蜥蜴の捜索は時間が掛かることが予想された。


「五時方向に魔物です」

「了解っす。無視して前進、来るようなら対応するっす」


 これまでの実践で熟達した魔力による空間認識は大雑把にだが五〇メートル先まで把握することが出来るようになっていた。つまり、索敵の重役は空跳が担っている。特に森という立地上周囲の樹が視界を塞ぐため、奇襲に対する警戒網として重宝される魔力性質だ。


「近づいて来てます。残り、二〇メートル」

「俺がやる」


 空跳の横にいたレートが申し出た。その手には刃渡り七〇センチにも及ぶ長剣が握られている。エクスプロードのように魔術刻印は刻まれていないが柄の辺りから鈍色だった刀身が徐々にガラスの如き透明色に変化していた。


「残り一〇メートル、フォレストウルフです」


 近くのもの程詳細に把握できる認識空間の特徴により迫ってきている魔物の正体を言ってみせた。森林狼(フォレストウルフ)は雑種の魔物であり、彼らにとって敵ではない。


 草木を駆ける音がレートにも聞こえた。迫り来る音から距離を測り、間合いに入る前に振り返る。そして、手に持った剣をタイミング良く狼にしか見えない魔物目掛けて切り付けた。奇襲を見抜かれていたとは知らず、反撃を喰らった森林狼は短い悲鳴を残して力尽きる。

 死体は斬られたというより殴られたといった方が正しく、頭部が潰れ、目玉が飛び出ている。雑種ならこの程度かと空跳が考えている間にレートは死骸を収納魔道具(拡張袋)にしまった。


 その後は何事もなかったかのように探索が再開される。襲撃に遭うのはこれで軽く一〇回は超えていた。そのため空跳も慣れたように雷剣たちの後を追う。

 道中レートと軽く会話をしながら捜索し、三時間が経過したその時、遂に魔鶏蜥蜴を発見した。情報通りの大きさであることから任務対象であることに間違いはない。

 全長一〇メートルにも届く大蛇だ。また近くの樹々は鱗によって削られたのか折れており、行動を阻害する一種の障害物となっている。


「戦闘用意っす」


 魔鶏蜥蜴も雷剣たちの存在に気づき、舌を出し、威嚇して見せた。




【Tips:魔物には魔石が必ず存在する。人体で言い換えれば脳や心臓といった最重要器官であるため魔石が砕かれれば如何に強力な魔物だろうと待っているのは死のみである】

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