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娘と散歩

活動報告や前作に、たくさんの励ましありがとうございます。


返答出来ず申し訳ありません。

生存報告の代わりです。

 先日娘と散歩に出かけました。


 それは朝4時、いつもの様に犬の散歩へ出かけようとした時でした。


「おはよう」


 犬の首輪を着けている私に娘が声を掛けて来ました。

 朝の弱い妻はまだ眠りの中、起こさない様細心の注意を払ってましたので、目が覚めるような物音は無かった筈です。

 自分の部屋から出てきた娘はパジャマではなく、既に着替えを済ませていました。


「こんな朝早くにどうした?」


「うん、なんか早く目が覚めちゃって」


「そっか、ちゃんと寝たのか?」


「まあ…少しは」


 心を病んでいた娘は3ヶ月の入院生活を終え、現在は自宅で静養をしているのです。

 退院したとはいえ、未だ元気になったとは言えません。


 今も夜は病院で処方された睡眠薬が欠かせません。

 時折目眩もしますし、情緒も不安定なままなのです。


「一緒に散歩行くか?」


「そうだね」


 少し照れくさそうに娘は笑います。

 着替えていたという事は、最初からそのつもりだったのでしょう。


 犬は娘との散歩に飛び跳ねて大喜び。

 退院以来、我が家の愛犬は娘にベッタリ、かなり嬉しいのでしょう。


「寒くないか?」


「大丈夫」


 玄関を開けると、外の外気が私達を襲います。

 娘は私が抱き抱えた犬の頭を撫でなから微笑みました。


「意外と外は明るいんだね」


「もう5月だからな」


「そっか…知らない内に季節は進んでるんだ」


 リードは娘が握ります。

 ゆっくりした歩調で散歩を始め最初に口を開いたのは娘でした。

 思い返してみれば、この数カ月、娘は長い闘病で移り行く季節を感じる事が無かったのでしょう。


「仕事…まだ忙しい?」


「もう少しの間はな」


 余り会話が弾みません。

 何を言って良いのか分からないのです。


 娘は公募推薦で合格した大学へ進学を決めました。

 滑り止めの大学でしたが、偏差値も高く、それなりに名の知れた学校です。


 退院後、大学の入学式は出席しました。

 その頃は体調も安定していたのです。

 しかし、僅か数回しか学校には通えませんでした。

 通学途中、電車内で酷い目眩に襲われてしまったのです。


 幸い、心配して一緒に大学へ向かっていた妻が娘の異変に気づき、電車を降りて事なきを得ました。

 しかし以来、娘は大学に通えなくなりました。


 退院以来、安定していた病状。


 新しく始まる大学生活。


 学友との交流、入学式でたくさん受けたサークルの勧誘とパンフレット。


『これならバイトも出来るかな?』

 明るく笑う娘の希望に満ちた未来は無残に砕け散りました。


 妻は入院していた病院に予約を取り、情況を説明しました。


 分かっていましたが、根本的な治療法等あるはずありません。

 そんな物があれば入院なんかしなくて済んだのですから。

 医師からは経過を観察するしかないとの診断でした。


「ねえ父さん」


「何?」


「私…休学しようと思うんだ」


「そっか…」


 小さな声でいいました。

 きっとこれを私に言う為、今日の散歩に来たのでしょう。


「学費がちょっと無駄になるけど」


「そんなの気にするな」


 気まずそうに言う娘。

 気にしないで欲しいのは本音です。


「母さんに言ったのか?」


「もちろんだよ」


 当たり前ですが、妻には先に言っていました。

 何度も相談を重ねて来たんでしょう。


「で、母さんは?」


「…ごめんなさい、だって」


「母さんが謝ったの?」


「うん…」


 なぜ妻は謝ったのか。

 目の前で体調を崩してしまうまで気づかなかった自責からでしょうか?


「大学と相談しなきゃな」


「色々な相談の窓口もあったよ、近々お母さんと行ってくる」


「へぇ…」


 既に話は出来ていました。

 蚊帳の外は少し寂しですが、私の出来る事なんか余りありません。


「その間、何か資格取ろうかな」


「資格を?」


「うん、TOEICとかTOEFLの…せっかく英語を勉強したし、忘れるのも、もったいないから」


「ほう…」


 第一希望だった大学受験の為、有利になる英検を取っていたのは知っていました。

 結局入院で、その大学の受験は出来ませんでした。


「休学学生の為にサポートプログラムがあってね、そこで見つけたんだ」


「なるほど…」


 後ろ向きにならず、前を向こうとする娘。

 まだまだ彼女の人生先は長いのです!


「先行くね!」


「あ…ああ」


 話は終わりとばかりに愛犬と駆け出します。


 朝日に輝く娘の後ろ姿。


 今度こそ、明るい未来を。


 そう願わずにいられない私でした。

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