ep.8 引越し
アレムの誕生日パーティーは、贈り物で空気が一変した。メイは言葉に詰まる2人に真相を聞けなくて——。
「引越し!?」
突然の発言にメイは面喰らった。アレムが恐る恐る届いた木箱を開けると、豪華な金のブレスレットが入っていた。そのブレスレットを手に取ったアレムが急に言いだしたのだ、「引越しましょう」と。
「間違いない。アイツにこの家がバレた。このままここにいるのは危険すぎる」
「お……父さんなんだよね?贈り物くれた人って。何が危険?」
メイはアレムとユラを見た。2人とも言葉に詰まっているようだ。
「メイ。嫌ならあなたはここに1人で住んでもいいですよ?」
「えっ……うんん、一緒に行きたい。魔法の修行したいし……」
「長くこの街にいすぎたのかもしれないね」
ユラは小さな声でそう呟くと、顔を上げてメイに向かって笑顔を作った。
「メイ、次はどんな所に住みたい?」
ユラのその顔は、これ以上ヴァシルスの話をしないでくれと言っているようだった。
(アレムはお父さんから逃げている?ユラと一緒に?どうして?私には言えない秘密があるの?)
メイは聞きたいことがたくさんあったが、言葉を飲み込んだ。
その夜静かに、引越しの準備が行われた。ユラの魔法であっという間に荷物がまとまっていった。たった2日間しかいなかった家だったが、メイはとても寂しかった。
「よし、ここが僕らの新しい家だよ」
ユラが魔法を唱え、瞬間移動した3人は、緑が鬱蒼と生い茂った森の中に降り立った。目の前には月光に照らされた古い2階建ての木造の家があった。まるで幽霊屋敷だ。ユラの笑顔がどんどん引きつっていき、足はガクガクと震え始めた。
「ねえ、勝手に開けていいの?」
玄関のドアノブに手をかけようとしているアレムを、メイは引き止めて言った。
「ええ。ここは私の……、親族が昔住んでいた家なので」
背中にしがみつくユラを従えて、アレムは事も無げに言い、玄関を開けて中へ入った。メイも2人に続いた。
家の中は全てが木製だ。床や壁、ドアや階段、窓まで。でも古いので所々カビが生えたり、朽ちていたりととても住める様子とは思えない。
「思ったより状態が悪いですね」
「メイ!そこの床危ないよ!」
「キャア!」
朽ちた床板でメイが階段から落ちそうになったものの、ユラが抱きかかえて難を逃れる場面もあった。
「できるかわからないけど、このままじゃ住めそうにないから」
ユラは杖を取り出して呪文を唱えた。長く詠唱しているのに、何も起こる気配がない。ユラの顔は徐々に険しくなっていった。そのうち、あたりが明るくなっていき、夜が明けようとし始めた。無理なのかな、もうやめさせた方が……アレムとメイがお互いをチラリと見た瞬間、ユラの足元に青色の魔法陣が浮かび上がった。そして、真っ青な眩しい光に包まれ、木の家はまるで新築のように蘇った。
ユラは魔力を使いすぎたのか、その場に倒れた。「ユラ!」メイとアレムが駆け寄る。「流石に疲れた……へへっ。ちょっと寝てこようかな」ユラは立ち上がり、フラフラした足取りで2階へ行った。アレムは音もなくメイの背後に立ち、
「あなたもこういうことができるようにならないと、ここを去ってもらいますからね」
と耳元で囁くと、
「あなたは1番小さいあの部屋で寝てください。弟子ですから」と、キッチンの横にあった4畳ほどの家事室を指してニヤリと笑った。
(ユラはあんなに優しいのに……)メイはユラを追いかけ、階段を上っていくアレムに「あっかんべー」と舌を出した。
次回、新キャラが登場する予定です。