ep.7 波乱の誕生日会
ランニングの後は体内の魔力を引き出す訓練。修行初日ですでにクタクタのメイ。でもこの日はアレムの22歳の誕生日で ——。
「気のすむまでやっていいよ」
ユラにそう言われ、メイは夢中で杖の先を光らせることに苦心した。念を送ってみたり、瞑想してみたり、また家の周りを走ってみたり。
日が暮れるまでクタクタになってやったが、杖の先は光らなかった。
トボトボと家の戸を開けると、食卓にご馳走が並べられていた。
「あ、おかえりメイ。頑張ったね」
キッチンにいたユラが振り返った。
「アレムは今お風呂に入ってるからその間に準備したんだ」
「そっか。今日はアレムの誕生日……。ごめんね、ユラ。一緒に準備しようって言ってたのに」
「大丈夫だよ。魔法で用意したから」ユラがメイに近づいてきてコソッと「魔法の方がうまく作れるしね」と言い、お茶目に笑うので、メイは少しだけ気持ちが楽になった。
「だいぶ疲れてるようだから」
そう言ってユラが杖を一振りすると、疲れも汗もない真っ新なワンピース姿のメイが出来上がった。
「ありがとう」
なんて魔法は便利なんだろう、とメイは思うと同時に、本当に自分は魔法使いになれるんだろうか……と心配になった。
「ん⁉︎ うまい!ユラ、これは魔法で作りましたね?」
「あ、バレた」
ユラとメイは目を合わせて笑った。アレムを囲んで開始された誕生日パーティ。風呂上がりだからなのか、アレムがいつもより柔らかく見える。
「これは何ですか?」
「あっ……それは……」
「それはメイが作ってくれた、りんごのウサギだよ」
アレムはりんごを手に取り、感心したように眺めている。
「ああ……なるほど、ウサギだ」
自分も何か用意したいと、メイは昨日貰ったりんごをウサギの形に切った。ただ、メイはあまり料理が得意ではないので、形がいびつだ。そんなに眺めずに食べて欲しい……メイが恥ずかしく思っていると、
コン、コン、コン。
玄関のドアを叩く音が聞こえた。
「ギャア!!」
ユラが飛び上がって叫ぶ。アレムはグッと眉間にシワを寄せた。
「こんな時間に誰だ?」
コン、コン、コン。「お届け物です」
ドアの向こうから甲高いしゃがれた声が聞こえる。
「私が出ます」
アレムがスッと立ち上がり、ゆっくりとドアを開けると、
腰の曲がった小さな老人が、小さな木箱を持って立っていた。
「お届け物です」
「誰からだ?」
「あなたのお父上、ヴァシルス様からです」
「!!」
ユラとアレムからピンと張り詰めた空気が流れた。
「確かに受け取った。もう帰って良い」
「はい」
小さな老人はフッと消えるように去った。
「どうやってアイツはこの場を突き止めた?」
普段から険しいアレムの顔がさらに険しくなった。メイはただならぬ空気を感じてユラを見た。ユラは両手をグッと握りしめ、下を向いている。メイはアレムへの誕生日プレゼントのハンカチを、今夜は渡せないような気がした。
次回は、この家から引越しするかも?な、急展開の予定です。