ep.6 修行開始
変身したメイとユラの買い物は最高に楽しかった。その日から一夜明け、メイの魔法使いの修行が開始された。アレムからの課題はキツいもので——。
はぁ、はぁ、はぁ……。
「魔法使いたるもの、体力も必要ですよ」
朝ごはんを終え、洗濯をしていたメイに、アレムがやってきて言った。
「洗濯が終わったら、家の周りを10周走るように」
バイトをかけ持ちしたり、電車賃がもったいなくて歩いて家まで帰ったり、体力に自信があったメイだが、走るのは久しぶりで相当キツイ……。でも、あきらめたくない。
「なんでこんなに無駄に広いの……」
ユラとアレムが住むこの家は、フィリエの中心地からは2〜3キロ離れた場所にある。
石造りの古い平屋の家だが、部屋が3部屋あり、中心地にあった建物より倍以上の広さがある。
「昔住んでいたあの家よりも大きいかも……」
家の周りを走りながら、メイはそんなことを考えていたが、そのうちに何も考えられなくなった。
はぁ、はぁ、はぁ……。
倒れそうになりながらも必死に走るメイを、ユラはもどかしく見守った。
「アレム、メイを走らせるなんて」
「こんなこともできないようじゃ、ここにおいて置く訳には行きません」
「でも……」
「彼女は魔法で昔住んでいた家を再現したいと言ったんですよ?魔法を扱うことが簡単じゃないことはユラも知っているでしょう」
「そうだけど……」
何周走ったっけ?確か、これで玄関の前まで辿り着いたら終わりのはず……。玄関のドアが視界に入り、メイは倒れこんだ。
はぁっ……!はぁっ……!
「大丈夫?メイ。すぐ回復するからね」
ユラが駆け寄って、メイに向かって杖を振った。苦しかった息が一瞬で楽になった。
「ありがとう。ユラの魔法は本当にすごいね」
ユラは首を左右に振った。
「10周走るだけの体力はあるようですね」
アレムは冷たくそう言い放つと、「では」と言って家へ入って行った。
「ごめんね、メイ。これも魔法使いになるための大事な審査なんだ」
「審査?」
ユラがそっと手を差し伸べたので、メイはその手を取って起き上がった。
「魔法を使うにはね、体の中の魔力を引き出さなきゃいけないんだ」
「魔力を引き出す?」
「初めのうちは、それを引き出そうとするだけでものすごく体力を消耗しちゃうんだ。早速やってみようか」
「うん」
ユラとメイは家から少し離れ、草原に立った。
「コツを掴めばすぐできるようになるよ」
ユラが杖を顔の前に構え、力を込めると、ポゥと杖の先が金色に光った。
「この光ってるのが僕の魔力。これを脳内のイメージやその場にある物質と合わせることで魔法になる」
「そうなんだ」
「まずはこうして杖の先を光らせたら第1段階……」
「ただし」
「ギャア!」
突然背後からアレムの声がして、ユラは飛び上がった。
「もうアレム!急に後ろから話しかけないでって!」
「すみません」
アレムは謝罪の意思がまるでないように無表情のまま、メイの方を向いた。
「ただし、私のように何年やっても光らない可能性があります」
鉄仮面のように無表情なのに、メイは何故かアレムが悲しげに見えた。
「……私のように?」
「ええ」
「魔力はね、全ての生物に宿っているものなんだ。でもそれを引き出すにはコツを掴まないといけない」
「掴むまであきらめなければいいんですよ。私はあきらめましたが」
「そっか……引き出せるかもしれないし、引き出せないかもしれないんだ……。でももしダメでも自力で家を作るから問題ないわ」
メイの清々しいくらいの真っ直ぐな目を見て、アレムは笑った。
「ははっ!あくまでも家づくりがあなたの目的のようですね」
初めて見るアレムの笑顔が、妙に色っぽくてメイはドキッとした。
この日はアレムの誕生日なのに、まったく本文で触れられてないのが可哀想です。でも次回はアレムの誕生日パーティになる予定です。