ep.5 初デート?
弟子となった初日、ユラと2人で出かけることになったメイ。でも出かける直前、ユラから提案があって——。
「可愛いお嬢ちゃんたち」
『?』
「はいこれ、おまけのりんご!」
「え? いいの?」
「ありがとう、おじさん!」
メイはりんごを受け取ってユラに見せた。
ユラは「やったね!」と言い、ここに入れるよう、持っていたカゴを指差した。
楽しい。こんなに楽しいのは人生で初めてかも知れない。
「次は道具屋へ行こうか」
「うん!」
フィリエの中心地である小さな商店街を、ユラとメイは並んで歩いた。
家を出る前、ユラはメイを引き止めて言った。
「せっかくだから変身して行こうか」
「変身⁉︎」
メイはワクワクした。リクエストを聞かれ、悩んだメイは姉妹になりたいと、お願いした。
子どもの頃からメイは、姉や妹がいたらいいのに……と夢見ていたのだ。
「了解!」と言ったユラが、持っていた杖を自分とメイに向けて一振りすると、あっという間に可愛らしい町娘に2人は変身した。顔にはそばかすがあって、双子のようにそっくりの姉妹だ。
「すごい!一瞬でこんなに……」
あまりの出来事にメイは唖然とした。
「魔法を見たこともないのか?」
アレムはメイが全身を確認し、1つ1つ感動しているの見て、怪訝そうに言った。
ピンクと水色、色違いのワンピース。2人とも赤茶色のゆるくてふわふわなロングヘアー。
窓ガラスに映る、おとぎ話に出てきそうなユラと自分に、メイは口元が緩んだ。
「ここだよ」
ユラにそう言われ、道具屋へ入る。天井が高く、細長い店内には、所狭しと大小様々な箱が置かれている。
「わぁ!すごい……」
メイは今にも落ちてきそうな箱を恐る恐る見上げ、ユラに付いて歩いた。
「メイの杖を買おうと思って」
「えっ!魔法の杖!? ありがとう」
「どういたしまして。んー、どれがいいかな……」
箱に顔を近づけ、真剣に悩むユラを横目に、メイは疑問が湧いてきた。
「ねえ、ユラ、今日はどうして2人だけで出かけたかったの?」
「あ‼︎ そうだ、忘れてた!」
「?」
「明日、アレムの誕生日なんだ。誕生日プレゼントを買おうと思ってたんだ」
「あ!そうなんだ!あははは、忘れてたの?」
「メイとの買い物が楽しくって、忘れちゃってた」
女の子の姿をしたユラが、照れて笑う。
「アレムがこの場にいたら、ムスッてなりそう。いなくて良かった」
「あははは」
日が落ちてくる頃、ユラとメイは買い物から帰ってきた。
「遅かったですね」
アレムはムスッとした顔で2人を出迎えた。
「いい買い物ができたよ。ああー、楽しかった」
ユラがそう言って、杖を一振りするとメイとユラの変身が解けた。
解けた瞬間、メイはハッとした。先ほどまであんなに寄り添い、本当の姉妹のように買い物をしたのは、こんなに美しい青年だったことを思い出したからだ。
同性だと思って接近しすぎたんじゃないかな……。メイが今日の出来事を顧みようとした瞬間。
「楽しかったのは今日までです。明日からはメイ、あなたの修行が始まりますからね」
アレムがメイに鋭い眼差しを向けてきた。
アレムの誕生日パーティをする予定なのに……。
メイとユラは目を合わせた。
設定では中世のヨーロッパよりもう少し東あたりに、メイのいる架空の街「フィリエ」をイメージしています。