追加 ep.2 婚礼後の初夜
婚約解消や王弟の葬儀があり、ユラとメイの婚礼はしばらく延期された。半年後、待ちに待った婚礼の儀式が始まる。
ユラの戴冠式から半年後、聖堂に多くの人々が駆けつけた。
メイとユラの婚礼の儀式があるのだ。
「見て、あの黒髪、あの黒い瞳」
メイの出生が不明なことに、顔を曇らせる来賓がいるようだ。
通り過ぎる際、ヒソヒソと話す声が聞こえたが、メイは気に留めなかった。
数ヶ月前の婚約パーティで、いずれ国民にも分かってもらえるよう、僕が王政に力を注ぎます、とユラが宣言した。それだけで充分だからだ。
途中、先王となったヴァシェルが大泣きするという場面もあったが、無事に儀式は終了した。
その夜、メイはドキドキして風呂から出た。しかし、出てすぐイヤな予感がした。
「やっぱり……」
ベッドで先に横になっていたユラが、いびきをかいて寝ている。安心と疲れがあるのだろう。
メイは、ほっとしたような、がっかりしたような気持ちになった。
「体を念入りに洗いすぎたかな……」
そう呟きながら、メイはランプの火を消し、ベッドに入った。
横で眠るユラのおでこにキスをし、目を閉じた。
そうして眠りについたメイは、夢を見た。
夢は、メイが階段で足を滑らせ、頭を打つところから始まった。
切れた後頭部から、ドクドクと血が流れていく。
眠っているメイは、頭に痛みを感じた。今まさに自分の頭から血が流れていくような感覚もある。
ラジオ体操をしていたおじいちゃんが、走ってきてメイを抱きかかえた。
「芽依ちゃん! 芽依ちゃん!」
おじいちゃんは必死に呼びかけている。
「芽依ちゃん、今ならまだ現世に戻れるよ?」
「え?」
夢の中のメイは目を見開いた。
「伯母さんの恨み、晴らしたいだろう? 戻るかい?」
おじいちゃんの目は、必死に訴えている。
「え? そんなことができるの?」
「ああ、今ならまだ間に合うよ?」
メイはしばらく考えて、首を横に振った。
「ううん、もう大丈夫。私が幸せに暮らすことが、父と母の望みだと思うから。このままこの世界で一生を終えたい」
そう言うメイに、おじいちゃんは優しく微笑んだ。
「そっか、よかったね」
笑顔に白い靄がかかって、おじいちゃんは消えていった。
「……イ、メイ?」
メイは目を開けた。ランプに照らされた金髪が、キラキラと光っている。メイの顔を覗き込んでいるのはユラだ。
「大丈夫? なんか寝言をたくさん言ってたけど」
「え、あっ、そう?」
メイは愛想笑いを作りながら、起き上がった。そして自分の後頭部を触ってみた。
傷もない、血もない。サラサラの髪がそこにあるだけ。メイは自分の白い手の平を見た。
「何かあった?」
心配そうに見つめるユラの顔が愛おしい。
「ううん、この世界に来ることができて、本当に良かったなって思ってたとこ」
メイの眼差しに、ユラはホッとしたようだ。
「僕も、メイに会えて本当に良かった」
2人は軽く口づけをした。
「このまま寝る?」
「眠たいから寝ようかな?」
メイは布団に潜った。
「え? 本当に寝るの?」
横になったメイは、ユラに後ろから抱きつかれた。
「ね? 本当に眠いの?」
「フフッ、本当は眠くないよ?」
2人の甘い声が絡み合い、夜は深けていった。
後もう少し、後日談を追加します。




