ep.42 マイハウス
ユラの魔法で、亡くなった人々は、ヴァシルスを除き、みな復活した。家族の大切さを改めて感じた女王は、ユラに王にならないかと提案して ― 。
ユラは席を立ち、ダイニングにいるみんなに頭を下げた。
「6年前、ここを出て行ってしまって、ごめん。僕は自分のことしか考えてなかった」
幼いエミリーもミゼルも、全員がシンと静かになり、ユラの声に耳を傾けた。ユラは昔の自分を思い返すように、下を向いて話した。
「王族として生まれた責任とか、そういうの、僕には関係ない。なりたい人が王になればいいと思ってた。でも、今は」
言いながら決意したように、ユラは顔を上げ、1人1人の顔を見た。
「僕がバルドルアの人々を幸せにしたい。この国の人々の幸せを僕が守ってみせる」
ユラは女王と目を合わせた。
「王になるよ」
「わーん」
女王の泣き声と同時に、一斉に拍手が起こった。
その夜、メイはユラを庭へ呼び出した。
「昨日までのことが嘘みたいだね」
「うん」
月明かりに照らされた庭は、草木がキラキラと光り輝いている。昨夜まで、蘇生を行っていた庭とは思えない、澄んだ空気だ。メイはその空気を深く吸い込んで、口を開いた。
「昼、言いかけてたことだけど」
「うん」
「私ね、魔法が使えなくなった」
「え?」
「死者の蘇生で、魔力を使い果たしたみたい。洗濯魔法もできないし、水も操れないんだ」
ユラは眉を下げた。
「じゃあ、家を再現する事も?」
「うん……」
メイは俯いた。
「でもね、もういいの」
メイはユラを見つめた。
「ユラさえ生きててくれたら、何もいらない」
「メイ」
「それだけはどうしても言いたくて」
はにかんだメイを、ユラは強く抱きしめた。
「メイ、僕と結婚しよう?」
「え……」
「王妃になってほしい」
「でも私は身分が……」
「大丈夫! 反対する人がいたら、僕が王の権力を行使する!」
ユラが真剣な顔で言うので、メイは笑った。
「メイがいてくれたら、僕は世界1の王になれる。愛してるよ、メイ」
メイは涙を流した。
「うん。私も、ユラを愛してる」
2人は口づけを交わした。
部屋の窓から、シロは庭を見ていた。
「いいのか? アレム」
「何が?」
アレムはもう寝ると言って、早めにベッドに横になっていた。でも寝ていないのがシロにはわかっていた。
「メイのこと、好きなんだろ? メイが王妃になる前に告白した方がいいんじゃない?」
「いいよ。告わなくて」
アレムはベッドから起き上がった。
「私はユラとメイ、どちらも大好きなんです」
アレムはシロの横に立った。庭ではユラとメイが手を繋いで歩いている。アレムは2人を愛おしそうに見つめた。
「あの2人が、お互いを想い合ってるんだ。こんなに幸せなことはない」
「でも……」
シロは熱を込めてアレムを見た。
「私はあそこに必要ない。この気持ちは墓場まで持って行きますよ」
アレムは優しい顔で笑った。
「私のことより、シロはどうなんだ? どんな子がタイプなんだ?」
ベッドに向かうシロを、アレムは追いかけて聞いた。
「そんなのない! そんなことより!」
ピタッと止まると、シロはアレムをキリッと睨んだ。
「オレは夢があるんだ!」
「夢?」
「うん。アレム、騎士団長に任命されただろ?」
「ああ」
「だからオレは、魔法団を作るんだ」
シロは手を腰に当て、ドヤ顔になった。
「そして、その王国魔法団の団長になる!」
「王国魔法団?」
「うん、魔法の力で、このバルドルアを守る! 騎士団との2大柱になるんだ!」
「へぇ、で、その団員は?」
「言っただろ! これから作るって」
「できるのか? シロに」
「できるよ!」
「杖もないのに?」
「あ!」
シロは口を大きく開けた。杖のことをすっかり忘れていたようだ。
「アイツに折られて、もうないんだろ?」
「それは、いつか買いに……」
「はい、これ」
アレムはポケットから杖を取り出した。
「私がユラから貰ったものです。シロにあげます」
「え、これ。いいのか? 宝物なんだろ?」
「宝物だから、シロにあげるんです」
シロは杖をそっと持った。
「ありがとう」
「その代わり、絶対に魔法団を作ってくださいね?」
アレムは笑った。
「うん!」
シロも笑った。
王宮から少し歩いたところに、バルドルアの聖堂が建っていた。大きくはないが、歴史のありそうな、荘厳な造りだ。この聖堂で今日、ユラの戴冠式がある。
女王に貰ったドレスを着て、メイは聖堂の中へ入った。張り詰めた空気に、身がキュッと引き締まる思いがした。
厳かな儀式の後、ユラは王冠を戴冠した。
振り返ったユラは、来賓の人々から、思わず声が漏れるほど、神々しく、勇ましかった。
クスッ。
メイはそんなユラを見て、思わず笑った。
「どうしたの、メイ?」
「笑うところか?」
隣に座っていたシロとアレムが、同時に小突いて聞いた。
「だって、初めて会った時のユラと違いすぎて」
「フッ」アレムも笑った。
「確かに。あの頃のユラは臆病が服を着ているようでしたからね」
フフフッ。3人は隠れてこっそり笑い合った。
戴冠式が終わり、ユラとメイは手をつないで王宮へ帰った。
メイはバルドルアの、白い大きな王宮を見上げた。
「ねえ、ユラ」
「ん?」
「もしかして……これからの私の家って……」
「うん。この王宮がメイの家だよ」
「だよね?」
「え、イヤ?」
ユラは不安そうにメイを見つめた。
「うんん! 最高!」
メイはとびきりの笑顔で王宮へ向かった。
このお話はこれにて終わりとなります。最後まで読んでくださり、ありがとうございました!




