e.36 参戦
ユラの風魔法でヴァシルスは上空へ飛んだ。そこには杖を構えたシロがいる。一方メイは、ピピを発見する。ピピの鳴き声は王都中に響き渡り—— 。
オゼンとヤシンは制服に着替え、王宮の庭へ出た。
「おい、あれ」
オゼンが指差した先、上空にはヴァシルスとシロがいた。
「あの子は、殿下の……」
箒に乗ったシロが、上空に浮いたヴァシルスに、雷魔法を放っている。
ヴァシルスはそれをマトモに喰らい、そのまま地面へ落ちて行った。
オゼンとヤシンは目を合わせ、その場へ走った。
地面に叩きつけられたヴァシルスは顔を歪めた。が、ゆっくりと立ち上がった。
「我が家の庭は、柔らかいものだな」
そう言うと、口から血がタラリと流れたが、致命傷ではない。しかし —— 。
あのガキの魔力はなんだ……。ケタ違いだ。子どもがもてる魔力量では、この威力は出ない。
ヴァシルスは体の痺れに耐えながら、子どもの顔をよく見た。
「あのガキ、どこかで……」
ヴァシルスは、あばら屋でソウレンを発見した時のことを思い出した。傍にいた子どもによく似ている。
「もしや、ソウレンの孫か……」
「風魔法!」
再びユラが魔法を放ち、ヴァシルスを上空へ飛ばした。
「同じ手を2度も喰らうか!」
ヴァシルスは自分の周りで渦を巻いている風と、反対の流れに剣と斧を振り回した。
「何があったんですか?」
ヤシンの声に、ユラは振り返った。
「反乱よ。ヴァシルスを反逆者として始末しなさい」
女王が冷たい声で言った。
「……この人は誰?」
コルセット姿の女王を見てオゼンは言った。ヤシンは小突いた。
「女王陛下だろ!」
「嘘つけ。そんなまさか……え、本当に !? 」
オゼンが大きく目を見開いたので、ユラは少しだけ気が緩んだ。
「ヴァシルスを倒したいんだ、手伝ってくれる?」
「ええ」
「わかりました」
ヴァシルスはユラの魔法を相殺させると、ドンと地上に降り立った。
「敵が増えたか。だが、1人ずつ倒せば問題ない」
一方、王宮内のある一室で、目を覚ました者たちがいた。ユラの双子の妹、ユーリとユリヤである。
「おはよう、早いわね」
「おはよう、ユーリもね」
2つ並んだベッドで、向かい合わせて寝ていた2人は、いつものように目を開けてすぐ、挨拶した。
「聞こえた? あの音、何かしらね」
「兄様が飼っているリスだと思ったけど?」
ユリヤの発言に、ベッドを下りたユーリは振り返った。
「リスってあんな音、出せるの?」
「さあ?」
ユリヤは眠そうに目をこすっている。
「とにかく、行ってみましょう!」
「ええ」
2人が階段を下りると、男が目の前に吹っ飛んで来た。
「……どなたかしら?」
ユリヤは男を見下ろし、ユーリに聞いた。肩や腕、太ももなど、たくさん斬られた跡があるが、致命傷ではないようだ。しかし、戦意を喪失したのか、横たわったままだ。
「どなただったかしら?」
ユーリも首を傾げた。男が飛んで来た方を見ると、黒いシャツとズボンの、長身の男が剣を持って立っていた。
「そいつは元騎士団長、シェリです」
黒ずくめの男が言う。
「ああ、そうだわ。シェリ……そういう、あなたは?」
「いっ……、いい所に来られました。ユーリ様、ユリヤ様」
シェリが体を起こしながら、ユーリとユリヤにすがった。
「あのものは反逆者です! この王宮を乗っ取ろうとしています! 捕らえてください」
「よくそんな戯言が言えますね?」
黒ずくめの男は、より顔が険しくなった。
「アイツはアレムです! この王宮からユラ王子を誘拐した男です!」
「アレム?」
「アレム……様 !? 」
ユーリとユリヤは目を輝かせた。
「アレム様は兄様のお友達でしょう?」
「小さい頃、よく一緒に遊んでもらいましたわ、懐かしい」
「またアレム様にお会いできるなんて! アレム様が反逆なんてするはずがありませんわ!」
ユーリとユリヤがキャッキャ騒ぐので、シェリは呆然とした。
「反逆者はそいつとヴァシルスです。おふた方、危ないので、下がっていてください」
アレムがそう言うと、シェリは立ち上がり、ユーリとユリヤに剣を振り下ろした。が —— 。
その剣は、ユーリが出した、薔薇の蔦に絡め取られた。
「それには及びませんわ、アレム様」
「私たち、結構強いんですよ」
ユーリとユリヤは薔薇の花を一輪ずつ手に持ち、ニッコリ微笑んだ。
次回は王国騎士団がやってくる戦いになります。




