ep.35 女王
子どもたちを殺され、逆上した女王はヴァシルスと戦いを始めた。ユラとシロはその援護に向かう。一方、怪我人を回復させていたメイは、シェリに捕まって—— 。
ヴァシルスの連撃を、次々と防御壁を繰り出して、女王は防ぎ続けた。
許さない、許さない、許さない! 今度こそ、絶対に此奴を殺してやる!
時折女王は、隙を見て渾身の電撃魔法を放ったが、ヴァシルスは一切避けようとせず、むしろ自分から当たりにいき、ビクともしないことを見せつけた。
「ムカツク!」
女王は髪を振り乱した。
「母上! 落ち着いて! 僕は蘇生が……」
ユラは声をかけたが、女王の耳には届いていないようだ。頭に血がのぼり、我を忘れているように見える。それが危なっかしくて、ユラは唇を噛み締めた。何としてでも女王に、蘇生ができることを知らせて、冷静になってもらいたい。一体どうすれば……。
シロがユラのお尻をぽんと叩いた。
「オレたちも攻撃しよう!」
「うん……」
シロとユラは離散した。
シロは庭師が置いて行ったであろう箒を見つけると、それに跨って、上空へ飛んだ。
そして、女王とは真逆の位置に陣取って、ヴァシルスの背中めがけて雷魔法を放った。
雷撃がヴァシルスに向かって走る。
「ん?」
ヴァシルスはその雷撃を避け、女王が作った防御壁に当てて跳ね返させた。
「あっぶね」
シロは髪一髪のところで、向かってきたそれを避けた。
「雷かと思ったが、ガキか。ガハハッ」
ヴァシルスは大笑いした。
「味方がガキ1匹とは頼もしいですな、姉上。我が国の騎士団はどこへ?」
「うるさい、黙れ」
「姉の魔力とワシの体力、どちらが先に底を突きますかな?」
「黙れと——」
「今だ! 風魔法!」
突然、植え込みに隠れていたユラがヴァシルスの前に現れ、杖を向けた。
突風がヴァシルスを上空へ持ち上げる。ユラは自分と女王が空に飛んでしまわないように、半円状の結界を作った。
「どんなに強くったって、空では何もできないんでしょう?」
シロがニヤリと笑った。
ダイニングでは、シェリとアレムが睨み合っていた。
この場に水はないだろうか……メイは首を動かさないよう、目だけで辺りを見回した。爆発のせいでコップの水はあちこちに飛び散っている。もっと多くの水があれば、操れるのに……。
「昨日」
突然シェリは、メイの耳に唇をつけて囁いた。アレムの眉間にグッとシワが寄った。
「パーティで踊ってましたよね?」
耳元で囁く甘い声に、メイの全身に悪寒が走った。
「あなたは思いの外、いい身体をしているようだ」
シェリは首元に突きつけていた剣をゆっくり下ろし、メイのシャツを破り始めた。
瞬間、アレムはシェリを突き飛ばし、メイを奪った。
そして、逆上して向かってきたシェリの胸ぐらを掴み、ダイニングから廊下へ投げ飛ばした。
「メイ、この部屋の鍵を閉めろ!」
アレムはそう言うと、シェリと対峙した。
「邪魔だなぁ、お前」
シェリは立ち上がりながら、煩わしそうに言った。
「今からお前にいいもの見せようと思ったのに」
アレムはふんと鼻で笑った。
「その真っ白いシャツとズボン、死ぬほどダサいですね」
「ああん?」
「真っ赤に染めてやりますよ」
アレムは剣を構えた。
扉を閉められたメイは、困惑した。
出て行ってアレムを援護したほうがいいのか、それとも言われた通り、鍵を閉めるべきか……。
「……ピピッ」
突然、鳴き声のような音が聞こえて、メイは振り返った。
「ピピッ!」
白いリスがユリックの上着から顔を出し、メイの体に駆け上がってきた。
「え……」
肩に乗ったリスを見て、メイは「ユリックにピピを預かってもらっていた」というユラの言葉を思い出した。
「ピピッ」
白いリスが鳴く。
「もしかして、あなたがピピ?」
「ピ——————」
メイは耳を塞いだ。超音波のような、高くて大きい鳴き声をピピが出したのだ。王宮中、いや王都中に響くんじゃないかと思うくらいの鳴き声だ。
廊下にいるアレムたち、戦っているユラたち、逃げ惑う使用人たちにもこの音は聞こえているだろう。
「ん? 何か助けを呼ぶ声がしなかったか」
使用人たちの住む屋敷、その一室で、ヤシンが目を覚ました。
ヤシンがベッドから降りようとすると、バッ!と、勢いよく扉が開き、オゼンが半裸姿で入ってきた。
「ピピに何かあった気がするんだが」
「ヤシンもそう思ったか」
「ああ、今すぐ王宮へ行こう」
次回からより一層激しい戦いになる予定です。




