ep.29 婚約パーティー
女王とヴァシルスの争いが王宮内で、始まったものの、花火の合図で中止された。それぞれの思惑を胸に秘め、パーティーは着々と進んで —— 。
青空のもと、バルトルア王宮の庭で、婚約パーティーが開かれた。
アナカイリヤから、国王と王妃、多くの貴族も招かれ、バルドルアからは女王とユーリ・ユリヤ、多くの貴族が出席した。
主役であるユラは浮かない顔をしている。が、青いスーツと白い肌、金色の髪が、その憂いある表情を一層引き立て、ユラを見た女性はその儚さにうっとりとした。
一方、もう一人の主役であるルヴィーナは、会場内の誰よりも綺羅びやかな、真っ赤なドレスをそれは見事に着こなしていた。天使のような微笑みを見た男性は、あんなに美しい方がこの世にいらっしゃるのは奇跡だ、王子殿下が羨ましい、と口々に言い合った。
重苦しい儀式や挨拶が終わり、パーティーが中盤になった頃 、陽気な音楽が聞こえ、人々はどこから聞こえるのかと探した。
ユラは婚約が嫌で、もうこの世から消えたいとさえ思っていたので、音楽が聞こえてきて、若干気持ちを立て直すことができた。 縦笛やギターなど、楽器の演奏者が次々と会場へ入ってくる。続いて、若い女性が8人ほど、カラフルな衣装を纏い、踊りながら入って来た。
「汚らわしいわ」
ルヴィーナが呟いた。
「あんなに肌を露出して」
ルヴィーナは踊り子を睨んでいる。
あんなに可愛らしいのに。そう思っていたユラは、持っていたグラスを落とした。
踊り子の一人がメイに似ている。白い肌に黒くて長い髪、青い衣装がとてもよく似合う。踊りは若干拙いが、一人だけ発光しているように見える。
「殿下?」
ルヴィーナは顔をしかめた。
「あ、いえ。手が滑って」
侍従がグラスを片付けに来てくれた。
男性が数人、踊り子にデレデレするので、妻らしき女性が小突く様子も見られる。
ユラは目を凝らして楽士団を見た。フルートを吹いている男性がアレムに似ている。タンバリンを持っている小さい子はシロに似ているような。
いや、まさか。いよいよ幻覚でも訪れたのだろうか。
陽気な音楽と妖艶な踊り。会場の人々は演奏が終わり、拍手喝采し、歓声をあげた。
「次の曲は我々と一緒に踊りましょう」
団長と思われる男が呼びかけた。
「メイちゃんには特別な役をやってもらいましょう!」
3人が楽士団に仮入団した後、団長は言った。
3人に楽器を触らせてみたところ、メイは壊滅的に楽器を演奏するセンスがないらしく、踊り子部隊に入ることになった。踊り子部隊の一人は、主役の2人の間で踊るらしい。
「そんなこと! できないよ‼︎ 」
メイは抵抗したが、我々の救世主だからと全員に押され、役を受けることになった。
「我々が迎えに来ていることを、ユラに知らせる良い機会だ」
アレムがそう囁くので、メイは覚悟を決めて練習へ向かった。
衣装を渡され、メイはその露出度の高さに驚いた。
下はスリットの入った長いスカートだが、上は胸を覆っただけのチューブトップのような衣装なのだ。
「メイちゃんはお胸が大きいのね。ギリギリだけどサイズが合って良かった」
他の7人の踊り子は色違いの同じ衣装をまとっている。恥ずかしいとは言えない雰囲気だ。これもユラに会うため……。メイは半分ヤケになり、そのまま練習に励んだ。
「我々はアナカイリヤとの国境にある、フィリエという街から来た、楽士団です。今から演奏する曲は、アナカイリヤの人々にも馴染み深いでしょう。さあ、一緒に」
団長の合図に合わせ、演奏が始まり、踊り子は一斉に会場に散った。会場の人々も音に合わせて踊り始めた。
メイはその中を、踊りながら進んだ。ユラを目がけて。
ユラと目が合った。少し痩せただろうか。しかし横に立つ、赤いドレスのお姫様が視界に入り、足がすくんだ。
この人が婚約者のルヴィーナ王女だろう。まるでお伽話の世界から出てきたように美しい。とても似合いの二人だ。二人とも気品高く、人を寄せ付けないオーラがある。
メイは気後れしてアレムを見た。目が『頑張れ』と訴えている。行くしかない。
メイはユラとルヴィーナの前へ赴き、膝まづいた。
「此度はご婚約おめでとうございます。お二方、ぜひ一緒に踊りましょう」
次回は踊りとヴァシルスの動きを書く予定です。




