ep.28 パーティ前
王宮で着々とパーティの準備が進んで行く中、メイやアレム、シロは楽士団と共に過ごしていて—— 。
楽士団が婚約パーティーに出ることを知り、「我々も一緒に参加させてほしい」と、アレムはお願いした。
メイもシロも家族のいない孤児だから、王都へは入れたとしても王宮内へ入ることは身分的に許されないだろう。自分にはそれを行使させる権力もない。いや、もしかしたら、自分もその身分はもうないかもしれない。
ヴァシルスを倒し、ユラを助ける。それを、なるべく平和的に遂行するには楽士団として潜入するのが一番だと思った。
日が暮れる頃、王都で一番大きなバーへ、楽士団と出かけた。団長が高々とグラスを掲げる。
「明日は盛大にパーティーを盛り上げよう!」
「おー!」
楽士団やその場にいた客も全員がグラスを掲げ、店内は乾杯の声に包まれた。
メイとアレムとシロは、角の席に3人で座った。
「いよいよ明日、ユラに会えるんだね」
ぶどうジュースを一口飲み、シロは言った。
「ああ」
「こうして3人でご飯を食べるのはこれで最後かもね」
メイの言葉に、シロは浮かない顔になった。
「どうしたの?」
メイはシロの顔を覗いて言った。
「……オレはソウレンじいちゃんに育てられてきたから、両親の顔も知らないんだ。だから、パパとママがいたらこんな感じなのかなってずっと思ってた」
「何の話だ?」
「アレムがパパで、メイがママ」
恥ずかしそうにシロは頬を掻いた。
アレムは顔を真っ赤にした。
「私もメイもそんな歳ではないぞ!」
つられてメイも赤くなった。
「うん、うん。せめてお兄ちゃんとお姉ちゃんじゃない?」
「そっか、そうだね」
シロの笑顔には元気がない。
「でも、この3人の生活も楽しかったな」
シロは2人を見つめて言った。
「決戦の日が近いから、ナーバスになってるのか?」
アレムが心配して聞いたが、シロは俯いている。
「大丈夫よ。すべてが終わったら、今度はユラも一緒にこうしてご飯を食べる時が来るよ」
「うん……」
翌朝、パーティーの準備で、王宮内が慌ただしい中、ヴァシルスは遠征から戻った。
急いで戻ったため、食事をろくにとっていない。何か食べるものはないかと調理場へ向かう廊下で、バルドルア女王と鉢合わせた。
「あら、ヴァシルス、早いわね。ちゃんと東の小国との争いは収めてきたんでしょうね」
「ああ。あの程度の小競り合いなんて、ワシが出るほどでもなかった」
「そう」
女王は通り過ぎようとしたが、ヴァシルスは手を前に出してとめた。
「なあ、姉上、ワシの戴冠式はいつだ?」
女王はヴァシルスを見上げると、鼻で笑った。
「あんな約束信じてるの? 誓約書はもうこの世にはないわよ」
「燃やしたのか?」
「ボヤがあっただけよ」
「ふん、白々しい」
ヴァシルスが行こうとすると、今度は女王が引き止めた。
「ねえ、いい加減、庶民の血が入ってるあなたは、王になれないって、気づいたらどう?」
「血など関係ない。あんなへタレのどうしようもない奴が王になるなど、ワシの身の毛がよだつだけだ」
「でもユラりんは高貴な血を持った長男よ」
「王となるには力こそ全てだ」
「いいえ、血が全てよ」
睨み合った2人はそれぞれに武器を持った。
ドンッ!
ヴァシルスの剣と斧、女王が作った防御壁がぶつかりあった。
「いい加減あんたの攻撃力じゃ、私の防御壁にはかなわないって覚えたらどう?」
「そちらこそ、防御だけではワシに攻撃できないことを覚えるがいい」
ヴァシルスは剣と斧を振り回した。しかし女王の放つ防御壁を傷つけることもできない。
「だから何度もあんたのこと暗殺しようとしてたのに。早く死んでくれない?」
「死ぬのは貴様だ」
ヴァシルスは女王から距離を取り、技を繰り出したが、女王は半円球の硬い防御壁を出現させ、攻撃を弾き返した。
「どうしてそこまで王にこだわるの? 王にはなれないって、ずっと言われて育ったから? それに対しての反発?」
「違う」
「この5年間、次は王になれるって勘違いできて嬉しかったんじゃない? あんたにはそれで十分よ」
「ワシは王になりたいんではない」
パンッ!
花火が上がった音がした。婚約パーティーがもうすぐ開かれることを民衆に知らせる合図だ。
「早く武器をしまいなさい。今日はアナカイリヤ国王陛下もみえているのよ」
ヴァシルスは仕方なく武器を背中にしまった。ふん、と言って女王はその横を通り過ぎた。
「姉上、パーティーにワシの席はないのか?」
「あるわけないでしょ」
女王は冷たくいいうとツカツカとその場を去った。
次回はパーティが開催される回になります。




