ep.27 ルヴィーナ王女
ヴァシルスがユラの婚約を知った頃、メイたちは王都に入ろうとしていた。一方、着々とパーティに追われる王宮内にユラは戸惑っていて—— 。
パーティの前日、ユラは会場である庭の広場へ向かった。
そこではルヴィーナが侍女と談笑していて、ユラを見つけ、微笑んだ。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう。今日のお召し物も素敵ですね」
「ありがとうございます。フフッ」
ルヴィーナはエメラルドのドレスを摘んで会釈した。そして目鼻立ちがハッキリした顔を左に傾けた。亜麻色の髪がふわっと風に揺れる。
ルヴィーナに会うのはこれで3回目だ。
初めて会った時は緊張でうまく話せなかったらしい。ユラはルヴィーナ王女は無口な方だな、と思った。
2回目は2人でこの庭を散歩した。
「花はお好きですか?」
沈黙を破ろうと、ユラは訪ねてみた。
「人並みです」
ルヴィーナは答えた。
「アナカイリヤの王宮は、ここよりももっとお庭が広いです。ここの庭は手入れは行き届いていますが、少し狭くて簡素な印象ですね」
「あー、そうなんですね……」
ユラはなんて答えようか戸惑った。
「では、動物はお好きですか? 僕はリスを——」
「苦手です」
「あ、そうですか……」
「先祖代々、動物が苦手な血筋なのです。動物って何をするかわからないでしょう? 動物はアナカイリヤの王宮内には一匹もいませんよ」
ユラはピピの話をしようと思っていたが、できなくなった。
「私が好きなのはドレスです」
ルヴィーナは自分のドレスを見つめ、うっとりした。
「私は一度着たドレスは二度と着ません。アナカイリヤには王宮内に仕立て屋があるんです。私は毎日そこへ出かけて、次に作るのはこの生地にして欲しい、こういう細工を施して欲しい、とお願いしているんです」
「へえ、そんなにこだわりがあるんですね」
「ええ」
「あ、今日のお召し物も素敵です」
「フフッ、ありがとうございます」
ユラはこれ以上、何と言えばいいかわからなかった。服のことは無頓着なのだ。
そして、今日が3回目だ。
「明日の婚約パーティはここで開かれるのですか?」
ルヴィーナは庭を見渡して言った。
「ええ。国王がここが良いのではないかと」
「……思ったより狭いですね」
ルヴィーナは不満そうに口を尖らせた。
「アナカイリヤにはここの倍くらいのガーデンがあって……」
ユラはうんざりした。ルヴィーナは何かというとアナカイリヤとバルドルアを比べる。大国の姫とはこういうものなのだろうか。ユラはこの人との未来が想像できないな、と思った。
「王女殿下、食事のことでお話が」
侍女がやって来て、ルヴィーナに声をかけた。
「では」
ルヴィーナはユラに会釈すると、その場を去った。
ユラは一人、会場を見渡してみた。明日、本当にここで婚約パーティが開かれるのか。ユラの心がズンと重くなった。今すぐここから抜け出してしまおうか。ユラは閉ざされた門を見つめた。でも、周りの迷惑を考えられないほどもう幼くはない。
「こちらにもっと椅子をください」
使用人が声をあげた。会場の端に舞台を用意しているようだ。ユラはその使用人に声をかけた。
「ねえ、ここは何するところ?」
「ああ。殿下。これは殿下の婚約をお祝いしたいと、フィリエから楽士団がやってくるんです。その演奏場所なんですよ」
「へえ、楽士団かぁ!」
ユラの心は少しだけ軽くなった。そう言えばフィリエで、アレムと一緒に楽士団の演奏を聞いたことがあった。あれはまだアレムが18でユラが15だった時のことだ。ユラはその時の自分達を懐かしく思った。
次回は王都へ入ったメイたちの話になる予定です。




