ep.22 シロとアレム
ユラを救うため、祖父の仇を討つため、王宮へ向かうことに決めたメイとアレムだったが、シロはまだその時じゃないと言い始めて—— 。
「え? もう出発するの? 早くない?」
メイとアレムが荷物をまとめ、決意を新たにしている所へ、起きてきたシロはキョトンとした顔で言った。
「オレまだ覚えたい魔法がたくさんあるんだけど?」
「いや、早く行かないとユラが」
アレムは王都のある方角を指して言った。
「アレムだって、今から向かってもまたすぐアイツらにやられるよ」
「何だと!?」
アレムはシロを睨んだ。
「ユラは無事だよ、たぶん。何となくわかるんだ」
シロはそう言うと、ちょっと待っててと、階段を駆け上がった。メイとアレムは目を合わせた。シロは何をしようとしているんだろう。
シロは使い古された、ユラの魔導書を持ってきた。そしてそれに右手を当て、目を閉じた。
集中するシロに、メイとアレムはそっと近づいた。
「ユラは今どうしてるの?」
痺れを切らしてメイは聞いてみた。
「何をしてる、とかは、分からないんだ」
シロは魔導書に手を当てたまま答えた。
「ただ、ユラのいる方角と、今どんな気持ちでいるか……っていうのがわかるんだ」
アレムはシロの話を食い入るように聞いた。
「どうだ? シロ」
「んー、ユラはこっちの方角にいる」
シロはソファのある、家の角を指差した。
「王宮のある方角だ」
家の角のにある窓の向こうを覗いて、アレムは言った。
「ユラは今……んー、 楽しそうな気持ち」
シロは目を閉じて言った。
「は? 楽しそう? そんな訳がないだろ!」
アレムは納得がいかないというように、リビングをツカツカ歩き回った。
「ユラは何度も家出するくらい、王宮が一番嫌いなんだ。楽しそうな訳がない!」
「んー、でも楽しそうなオーラが見えるんだ」
シロは何度も魔導書を触り、首を傾げながら言った。
「それなら良かった……よね?」
メイは2人を見比べて言った。
「やっぱり、今すぐ助けなきゃいけない訳じゃないと思うよ」
シロは目を開けてアレムを見た。
「そう……なのか……」
アレムは不服そうに、窓の向こうを見た。
その頃ユラは、また王宮から逃げ出さないように、国王からペットをプレゼントされていた。
「ああー、可愛い♡ 本当に可愛いね、お前は」
広く豪華絢爛なユラの部屋。その中央にあるソファに腰掛けたユラは、右手に小動物を乗せている。それは、真っ白なリスだ。リスはユラの手の平に頭をこすりつけたり、手をぐるぐる駆け回ったりしている。
「名前をつけようか。なんて名前にしよう」
ユラは頬杖をついて考えた。リスはユラの肩に止まり、顔を向き合わせた。
「メイ……はちょっとあからさま過ぎるか」
ユラは頬をピンクに染め、照れ笑いした。
「ピピッ」とリスが鳴いた。
「ん? ピピ……。ピピ、にしようかな名前。ピピちゃん」
ピピは再びピピッと鳴いた。フフフッとユラは笑った。
ユラの部屋、扉の前にはイカツイ衛兵が2人立っている。
ユラはその2人をチラッと見て、コホン、と照れ隠しの咳をした。
シロは魔導書をテーブルに置いて、メイとアレムを見た。
「もう少し修行して、3人がもっと強くならないと、アイツらには太刀打ちできないとオレは思う」
「うん、そうかも……ね?」
メイはアレムを見た。アレムはじっとシロを見据えている。
シロは手をポンと叩いた。
「そうだ、アレム! 1対1でオレと決闘しようよ」
「はぁ!?」
アレムはグッと眉間にシワを寄せた。
3人は森の広場へやってきた。昨夜の雨とは打って変わって今朝は天気が良い。雨粒が光って森の中はキラキラ輝いている。
「シロ、やっぱりアレムと闘うのは危ないと思うよ?」
メイはシロの腕を掴んで言った。
「大丈夫だよ、メイ。オレ、攻撃魔法いっぱい覚えたんだ」
シロは自分の杖を自慢げに振って見せた。
「私が倒したいのは魔法使いじゃないんだよ?」
アレムは気だるそうに、木の枝を拾っては捨て、拾っては捨てている。
「でもいつ、どこで、どんな攻撃がくるか、分からないよ」
シロは遠くにいるアレムに大きな声で言った。
「オレが思うにアレムは、今まで1人で稽古してたんだろ? だから人との実戦経験が少ない。いくら筋トレしてたって、闘いには勝てないんだよ」
アレムはシロに向き直って、ギロリと睨んだ。
「私を馬鹿にするのもいい加減にしろよ」
「オレはヴァシルスを倒すと決めたんだ。ヴァシルスに負けたアレムを怖がるようじゃダメなんだ」
メイは杖を構えるシロの手が、ブルブルと震えていることに気づいた。
アレムは深くため息をついた。
「剣は流石にやめておく。クソガキにはこれくらいでいいだろう」
アレムはまっすぐ伸びた30cmほどの木の枝を、剣のように持って構えた。
「それでいいのか? 後悔しても知らねーぞ!」
シロはニヤリと笑った。
次回はアレムとシロの決闘の行方を更新する予定です。




