ep.21 メイとアレム
シロの「仇を討つ」という決意を聞いたアレム。自分はこれからどうしようか。悩むアレムは、夜中に森へ向かうメイを見つけて—— 。
アレムが外へ出ると、パラパラと小雨が降っていた。こんな雨の中、メイはどこへ行くのだろう。アレムは暗がりの中、目を凝らしながら、メイの後を追った。
案の定、メイは広場で足を止めた。そしてそこに残る瓦礫に近づき、愛おしそうに触り始めた。
ああ、そうか。あの満月の夜は、アイツらを追い払うのに夢中で気付かなかった。
「申し訳ない」
アレムはメイに頭を下げた。
「アレム? え、どうしたの?」
突然話しかけたからか、メイは驚いた様子だ。アレムは瓦礫の山を見た。
「それ、メイが作った家なんだろう?」
メイも瓦礫の山を見つめた。
「うん。思い描いた通り。昔住んでいた家と、全く同じのができたんだ」
「でもアイツが壊したんだろう?」
アレムが眉根を寄せて言うと、メイは小さく頷いた。
「本当に申し訳ない」
アレムは再び頭を下げた。
「やめて」メイは首を左右に振った。
「アレムが謝る事じゃないでしょう?」
「いや、でも……」アレムは謝る姿勢を崩さない。
「家が壊されたことはもちろん悲しい。けど、今は……」
メイが言い淀んだので、アレムは顔を上げてメイを見た。
「今は、あの時、一緒に喜んでくれたユラが、いないことの方が悲しい……」
メイの言葉に、アレムは言葉を詰まらせた。
「メイ」
「ん?」
「バルドルアには、様々な街があります」
アレムは背筋を伸ばし、明るい笑顔を作って言った。
「果物がたくさん採れる街もあるし、漁業が盛んな街もある。魔道具づくりが有名な街だってありますよ」
身振り手振りで話すアレムを、メイは不思議そうに見守った。
「これからメイは、そういう様々な街に行ってみるといい」
「なんで?」
眉毛を下げ、メイはとても悲しそうに言った。
「気に入った街を見つけたら、再び家を魔法で作るんだ。そうやって暮らしたらいい」
アレムは自分でも、こんな笑顔は似合わないだろうと思った。
「……でも」
「メイの目的は、家を再現することだったはずです。それはもうできるようになったでしょう」
「……」
メイは何やら考え込んで、またアレムの目をまっすぐ見て言った。
「アレムは? アレムはこれからどうするの?」
「私は……シロを連れて王宮へ行きます」
「え?」
「シロは今、ソウレンの仇を打つと息巻いている。私はそれを援護しながら、ユラを王宮から連れ出そうと思っています」
「それなら私も——」
アレムは静かに首を左右に振った。
「新しい街へ行くのがイヤなら、あの木の家はメイにプレゼントしますよ」
アレムはいたずらっぽく笑った。
「万が一、ヴァシルスを倒して、ユラを取り戻すことができたら、メイの待つ木の家へ帰って来るので」
「……私は行ったらダメなの?」
「はい。今度こそ本当に死ぬかもしれない」
「……」
「私はメイに死んで欲しくない」
メイの瞳が潤んだので、アレムはサッと後ろを向き、広場を出ようとした。
「待って」
アレムが振り向くと、メイは深く頭を下げていた。
「何で頭を下げている?」
アレムは怪訝そうに見下ろした。
「お願いします。私も王都へ連れて行ってください」
「だから私は——」
「回復魔法覚えたの!」
メイはアレムの右手を取った。アレムは驚いた様子でメイを見た。
メイがアレムの手に念を込める。虹色の光がポゥと小さく灯って、アレムの手にあった小さな切り傷は跡形も無くなった。
「まだこれくらいしか癒せないけど、でももっと覚えるから。アレムやシロの役に立てるよう、サポートするし……」
「メイ」
「お願い!家にひとりでじっと待ってるなんて、絶対にしたくない ‼︎ 」
メイの瞳から大粒の涙が流れた。それらが雨ではないのが、面と向かったアレムにはハッキリ分かった。
アレムはメイの手をそっと離した。
「……明朝に出発します」
「アレム……」
「それまでに支度しておくように」
メイは泣きながらも笑った。
次回からはメイ・アレム・シロが結託し、王都へ向かう話になります。




