ep.20 バルドルア国王
不本意ながら、王宮へ戻ったユラ。6年ぶりの国王との再会に、ユラの心は複雑で —— 。
「ああーっ! ユラりんだぁ! 本物だぁー!」
玉座の間へ通されたユラを見て、バルドルア国王は飛んで来た。
「寂しかったんだからー! 6年もどこに行ってたの? ユラりんっ!」
国王は頬を膨らませ、むくれた顔でユラに抱きついた。
「見ない間にカッコよくなったねー! さすがは私の息子♡」
ユラと同じ、黄金に輝く髪を左右に揺らし、国王は上目遣いで言った。
「あの……女王陛下、僕はもう19ですよ? 僕をユラりんと呼ぶのは……」
ユラは引きつった笑顔で、国王の腕から離れようともがいた。
「えー! いいじゃない!」
国王はより強く、ユラに抱きついた。
「ママ、寂しすぎてね。ほら、あっちに」国王は窓側に立つ執事を指差した。
「もう1人子ども作っちゃった。第3王子だよぉ〜」
白い髭を生やした年配の執事は、抱き抱えている赤ん坊の顔を、こちらにチラリと見せてくれた。
ユラの父親はユラが産まれてすぐに亡くなっている。あの子の父親は一体誰なのか……。疑問に思ったが、ユラは聞きはしなかった。
国王はスッとユラから離れ、「ユラりん、王様にはならないって宣言したでしょう?」と、玉座に座り、足を組んで言った。
「あれね? 撤回して欲しいの」
ユラは眉間にシワを寄せた。
「どうしてもママは、ユラりんに王位に就いて欲しいの」
「でも……」
「ヴァシルスだけは絶対にイヤなの! ねえ!ユラりん、首を縦に振って〜?」
6年ぶりの再会なのに、顔を合わせて早々またこの話か……。もう疲れた。もうどうでもいい。この人からはどうやったって逃れられないのだ。
ユラは深く息を吐くと、首を縦に振った。
ルプラルの森の家で、アレムはうなされて目を覚ました。身体中から汗が滴り落ちる。
頭や腕のケガが痛くてうなされたのではない。それらはもう癒えてきている。
ユラを行かせてしまった。ヴァシルスにも、シェリにも敵わなかった。それらがアレムを苦しめていた。
メイの話によると、ユラはメイを守る為、自ら王宮へ帰ると言ったらしい。
6年前は、「アレム、一緒に王宮から出ないか」と、ユラが誘ってくれたのに。
どうして今回は1人で帰ってしまったのだろう……。私も一緒に王宮へ連れて行って欲しかった……。
アレムは水を飲もうと部屋を出た。すると、ユラの部屋から灯りがもれていることに気づいた。もしかして……。
アレムはユラの部屋の戸を勢いよく開けた。
部屋ではシロが床にたくさんの魔導書を広げて読んでいた。
「何をしてる?」
シロはヴァシルスの配下だった男、ソウレンの孫だ。良からぬことを考えているのではないかと、アレムは自分の顔が引きつるのが分かった。
「ソウレンじいちゃんの仇を討つんだ」
シロは魔導書に目を落としながら言った。
「魔導書をたくさん読んで、魔法をいっぱい覚えて、オレがヴァシルスってやつを倒すんだ」
アレムは一瞬シロが何と言ったのか、理解できなかった。
「アハハハハッ!ハハハハハッ!」アレムはやっと理解して、高笑いした。
「お前が? アイツを?」
アレムは笑い過ぎて腹を抱えた。シロはそんなアレムを怪訝そうに見上げた。シロは剣も重くて持てないような、痩せた小さな子どもだ。その子どもがアイツを倒すなんて。笑い話でしか有り得ない。
「私が何十年も鍛錬して、汗に血が滲むような努力をして、それでも勝てなかった。全く敵わなかったアイツに。お前が? お前ごときが? 勝てる訳がないだろ!」
アレムは言いながら無性に腹が立った。
「でもユラは言ってくれたんだ」
シロは立ち上がり、アレムの目をまっすぐに見据えて言った。
「オレはユラを超える、バルドルア1の大魔法使いになるって」
アレムもシロの目をじっと見た。
「オレはその言葉を信じてる」
シロのオレンジ色の目は、一瞬たりとも揺らぐことがない。
「そうか」と言って、アレムはシロから目を逸らし、部屋を出た。
アレムがキッチンへ行こうと階段を下りると、メイが寝間着のまま家を出て行くのが見えた。
「こんな夜中にどこへ行くんだ?」
アレムはメイの後を追った。
次回はメイが今後に悩む回になる予定です。




