ep.2 美しき魔法使い
階段から落ち、死んでしまった芽依は爽やかな風と共に目を覚ました。そこでは青い瞳、ハタチ前後かと思われる、金髪の青年が芽依を見ていて——。
遠くから見てもわかる、その彼の神々しさに、芽依は、ただじっと見惚れていた。
「起き上がった!? 僕のこと見てる? え? もしかして生きてる?」
こちらを見ながら、彼は独り言を呟いている。
「あのー、すみません」
芽依は金髪の彼に声を掛けてみた。
「え? 話しかけてる? 僕に? 言葉を話せるんだ!? 」
甘く優しい声だ。でも、キョロキョロしたり、頭を抱えたり、挙動不審だなと、芽依は思った。
「あのー、すみません」
ゆっくり立ち上がり、芽依は彼に近づいてみた。
「ギャアー!!!!!」
突然で驚いたのか、金髪の彼は後ろへ仰け反って尻餅をついた。
「こっちへ来る…… ギャア…… どうしよう……」
美しい見た目とは裏腹に、彼は小心者なのか、芽依を死人が甦ったかのような目で恐れて、後ずさりしている。
芽依は彼に近づくのが申し訳なくなって、足を止めた。そして辺りを見回した。遠くに青々とした山、左には街らしきものも見える。
「ここはどこですか? あなたは?」
「ぼ、僕はユラ。魔法使い。こ、ここはバルドルア王国の、フィ…フィリエという村だよ」
「バル……? フィ…?」
芽依は頭を傾げた。そういえば、自分も彼も日本語を話していない。でも言葉が分かるし、話せる。不思議な感覚だ。
「ぼ、僕が魔道具を取りに倉庫へ行こうとしたら、キミがそこで倒れていたんだ」
「マドウグ?……ってなんだっけ?」
「魔法の道具」
「魔法の道具!?」
「ギャ!」
芽依が大きな声で叫んだからか、ユラは体を縮めて丸くなった。
(死んだと思ったら、異国の地……魔法のある世界……まさかこれって……異世界転生なのでは?)
芽依は立ち上がって自分の体をしげしげ見た。服装は死んだ時と全く同じ、白いTシャツと紺のジーパンに白いスニーカー。顔や髪を触ってみる。いつも通りの凹凸の少ないのっぺりとした顔。一つに束ねた黒髪も同じ。どうやら自分自身はそのままのようだ。せっかく転生したなら絶世の美女に転生したかったのに……。
ユラは芽依の挙動が怖いのか、芽依が動く度にビクビク構えていた。
「キ、キミの名前は?」
「私は芽依」
「メイ。体は大丈夫?」
「うん……どこも痛くない」
ユラはゆっくり立ち上がり、芽依に恐る恐る手を差し出した。芽依はキョトンとして、その手を取った。
「大丈夫で良かった。じゃあ僕はもう行くね」
ユラはぎこちなく笑うと手を離し、すぐさまこの場を去ろうとした。でもこんな何も分からない場所に1人になるなんて不安すぎる。
「待って!」
芽依は慌ててユラが羽織っていた、グレーのローブを掴んだ。
「ギャア!」
ユラは驚いて飛び上がった。
「私、魔法使いになりたいの! ユラに弟子入りさせて!」
「で、弟子入り!?」
咄嗟についた嘘だった。いや、嘘じゃない。魔法使いは子どもの頃に一度は見た夢だ。もしここが本当に異世界なら、魔法使いになってみたい。それにもしかしたら両親を甦らせることができるかも……。それは芽依の最たる望みなのだ。
「そんな突然言われても……」
「はるばる遠い地から、そのためだけにここへ来たの! お願い!」
嘘はついてない。ユラには申し訳ないが、ここで引き下がる訳にはいかない。
「……じゃあ……」
「ダメですよ。ユラ」
突然、背後から針のように突き刺さる冷たい声がして、芽依は振り返った。
真っ白な肌に深緑の髪。真っ黒なローブを羽織った、長身の男性の姿がそこにあった。
悩みつつ勢いで書いてます。読んでもらえたら嬉しいです。