ep19. 離れ離れ
シェリとアレムが戦う。メイとシロはその様子を隠れて見守っていた。でもこのままではアレムが危ない……。一方王都へ向かう、ユラは——。
キンッ。
アレムとシェリが剣を交える。2人が起こした砂塵がメイの所にも飛んでくる。
早すぎて、メイの目では追うことができない。
「互角……いや、アレムの方がおされている」
いつの間にか2人の戦いを見ていたシロが、呟いた。
「おされているんだ……」
メイは背負っていたシロを下ろした。
「メイ?」
「シロはここで待ってて?」
メイはニコッと笑うと、広場へ向かった。
シェリがアレムの脚を切ろうと、剣を振り下ろす。と、アレムは一回転してそれをかわし、同時にシェリの首を狙う。
シェリは身を縮め、今度はシェリがアレムの首を狙った。アレムはその剣を避けようと後ろへ体を反らせたが、バタンッ!瓦礫で足を滑らせ、倒れてしまった。
その拍子にアレムの剣は手から離れ、地面を滑ってメイの足元にきた。
「ククククッ。私のどこが遅いって !? ああん? 」
シェリはアレムの顔をブーツで踏みつけた。「ゔゔっ」アレムは顔を歪めながらも、シェリの足をどけようと、必死にもがいた。
「ああ……自分の教え子を殺すのは、胸が痛いな……」
シェリは満月を見上げ、胸に手を当てて悲しい顔を作った。
アレムは傍らに落ちていた瓦礫を手にし、踏みつけていたシェリの右足のふくらはぎを斬りつけた。
ズボンは破れ、赤い血がアレムの顔にも飛ぶ。
「ぐわぁ!!!」
シェリは脚を抱えた。
今しかない……メイは思った。
「ムーヴ!」
メイは持っていた杖をシェリに向けた。
シェリとアレムがメイを見る。杖の先から赤い閃光がシュッと走り、シェリに当たった。そして、パッと姿を消した。
「はぁ……、はぁ……」
アレムとメイの息遣いが広場に響く。
「ぐすっ……良かったぁ……」
シロの泣き声が聞こえる。
「魔法、発動した……良かった……」
メイはその場にへたり込んだ。
ユラはヴァシルスの馬に揺られながら、正気を保つのに必死だった。
すぐ後ろで手綱を引いているのは、過去自分を何十回と暗殺しようとしてきた人物だ。
いくら国王が僕を「生きて連れてこい」と命令したからと言って、何度も殺そうとしてきた張本人が背中にピッタリといるのだ。正気を保っていただけで、褒めて欲しい。
出発したルプラルの森から王都までは約3日かかった。その間、ヴァシルスの家来から何度も食事をすすめられたが、ユラは摂る気になれなかった。
6年前、「僕は王になりません」と国王に宣言し、ユラは王都を出た。なのに、またここへ戻ってくるなんて……。
メイやアレム、シロは元気だろうか。
門兵が王都の門を開ける。開けた先には多くの民が、王子の帰還を喜び、駆けつけていた。王宮までの道にビッシリと群がっている。
「修行の旅から戻られたそうだよ」「まあ、より一層お美しくなられて」「なんて立派なんでしょう」「ああ、神様。王子を再び見ることができて、あたしゃもう、いつお迎えが来ても悔いは無い」
そういう声を聞きながら、ユラは吐き気に耐え、笑顔を作り、民に手を振った。
ヴァシルスは自分が王子を見つけてきたのだと、大手柄だろと、ガハハハッと笑っている。
「ああ……またこの毎日か……」
メイやアレムやシロ。4人で仲良く囲んだ食事が、もう懐かしい。
王宮の真っ白い壁は、太陽の光が反射し、目も開けていられないほどだ。
「なんて眩しいんだろう」
ユラは呟いて、涙を流した。
次回は国王に謁見する、ユラのお話になると思います。




