ep.18 決闘
シロが「探知」の生き残りだということがわかった。シェリの言葉で、シロは記憶を取り戻しかけていて——。
シロは右下を見つめ、記憶を辿るように話した。
「あの日は、いつもシワシワなじいちゃんが、よりシワシワになって帰ってきたんだ」
「シロ、やってしまったよ……」
「何?どうしたの?」
ソウレンに朝食としてリンゴを渡しつつ、シロは聞いた。
「言いつけを間違えてしまったんじゃ。国王様の名前を出す所で、王弟様の名前を出してしまった……」
ソウレンはリンゴを受け取ると、曲がった体を、より丸めて小さくなった。
「きっと王弟様はご機嫌を損ねるだろう。もしかしたら、わしは殺されてしまうかもしれない……」
「えっ、そんな……」
シロはソウレンのローブをギュッと握った。ソウレンはシロの手を優しく取った。
「大丈夫だ。また、探知の力で王子を見つければいいだけの話だ」
ソウレンは優しく微笑んだ。
「シロは心配しなくていい」
「本当に?」
「ああ。なぁ、シロ。また森から果実を多めに取って来てくれないか?」
「うん、いいよ……」
「家を出る時、オレは王子が使ってたスプーンをポケットに入れた。オレだって「探知」できるかもしれない。王子を見つければ、じいちゃんは殺されたりしない。それでオレはこの森に辿り着いた」
「近い!絶対近くに王子がいる!わかる!」
シロは夢中で走り過ぎて、枯葉で足を滑らせた。森は崖に向かって斜面になっている。このままでは崖下に落ちてしまう!滑りながら、シロは必死で木を掴もうと、もがいた。—— が。
ガンッ!岩の角に頭を打ち付けて、そのまま崖へ放り出された。
バシャン!
「ぷはっ!誰かー!誰か、助けてー!」
「それでシロは川に……」
メイはシロを見つめ、小さな声で言った。
「アイツに教えるために、ここへ来ていたとは」
アレムは眉間にシワを寄せて言った。
シェリが、フンと鼻で笑った。
「ソウレンは見るに耐えない死に際だったよ。小便を垂れ流しながら命乞いを——」
「やめろ!!」
アレムが叫んだ。
「シェリ……貴方はもう私の知っている先生ではない。アイツの手下なら、ここで倒す」
アレムがシェリに向けて剣を構えた。
「貴方を倒して、私はユラを助けに行く」
ククッ、シェリは不敵に笑った。
「できると思うのか?ヴァシルス様の片腕にも敵わないお前が?」
アレムは奥歯を噛み締めた。
「メイ、シロを連れてこの場を去りなさい」
アレムがシェリを見据えたまま、メイに言った。
「貴方たちがここにいるのは足手纏いです」
「でも……」
メイは呆然としているシロの肩を抱いた。
「いいから!お願いだ。早く行ってくれ !! 」
アレムの熱の入った声に、メイは頷くしかなかった。
シロをおんぶして、メイは森を走った。
キンッ!……ガキンッ!
広場から戦う音が聞こえる。
メイは足を止めて振り返った。本当にこのまま家に帰っていいのだろうか……。アレムは瓦礫で頭を強く打ったばかりだ。もしかしたら、死んでしまうかもしれない……。
メイは踵を返した。シロをおんぶしたまま、来た道を戻った。そして、広場の近くにある大木の影に隠れた。
「お前の太刀筋は私が基礎から教えたんだぞ?見抜けないわけがない」
シェリは勝ち誇ったような笑顔だ。
「貴方こそ、その飾りのような眼帯のせいで死角が出来てますよ」
アレムも笑っている。しかし、頭以外に、肩や腕からも血が出ている。
「遅いんですよ。昔のような俊敏さはどこへ行ったんですか?」
アレムの言葉に、笑顔だったシェリはグッと鬼のようになった。
「何 !? 」
「もう30代半ばでしたっけ?体力の限界なんじゃないですか?」
「あーもういいや、アレムお前」
シェリは真っ暗な空を見上げた。
「半殺しにしようと思ったけどやっぱり殺そう。ダメだ、お前は」
シェリは首をゴキゴキひねり、準備体操のように体を揺らした。
かつてアレムの剣の先生だったシェリとの戦いはどうなるのか、次回書きます。




