ep.17 素性
アレムの抵抗も虚しく、ユラはヴァシルスに連行されてしまった。残ったヴァシルスの側近シェリは、シロの素性を知っているようで ——。
「お前!変質者か!?メイを離せ!」
シロの叫ぶ声が聞こえる……痛っ。アレムは頭を抱えて起き上がった。
アイツにぶん殴られたせいで気絶していたようだ。クソッ!アレムは地面を強く殴った。
遠くにメイとシロ……。あと1人は誰だ? 青い髪の男……、もしかして…… 。
ふらつきながらアレムは3人の元へ歩いた。
「お前!オレの事知ってんのか !? 」
シロが再び叫んだ。そんなに血相を変えて、シロはどうしたんだ? そんなことよりユラは?
「ユラはどこだ?」
アレムの低い声に、メイは振り返った。
「アレム!」
ふらついて今にも倒れそうなアレムを、メイは駆け寄って受け止めた。その拍子にメイの手のひらにはアレムの血がべっとり付いた。
「ああっ…… 頭から血がっ……」
メイの目は涙でいっぱいだ。
「メイ、ユラはどこだ?」
アレムの問いに、メイは唇を噛み締めた。
「ユラは………… 」
「王子はヴァシルス様が今、王宮へお連れしているよ」
シェリが2人の元へやってきて言った。
「やっぱり……シェリ……先生」
アレムの言葉にメイは目を丸くした。
「久しぶりだな、アレム」
シェリは不気味な笑顔で握手を求めた。
「あなたがどうしてここに?」
アレムは怪訝そうにシェリを見つめ、手は取らなかった。
「私は今、ヴァシルス様の配下にいるんだ。アレムが王都を離れてから6年。私にも色々あったんだ」
「なあ!お前!そんなことよりオレの事教えてくれよ!」
シロがやってきてシェリの腕を引っ張った。
「オレ、記憶がないんだ。オレの事、待ってる家族がいたら可哀想だろう?早く教えてくれよ!」
シェリは煩わしそうにシロの手を振りほどいた。
「シロくん。残念だが、キミに家族はいない」
「え……」シロは眉根を寄せた。
「キミの唯一の家族は、ヴァシルス様が殺したよ」
「なっ……」
シロやメイ、アレムも言葉を失った。
「確か……名はソウレンだった」
「ソウレン?」
シロは考え込んだ。
「なんでだろう…… ソウレン。知ってる気がする…… 」
「キミの一族は、『探知』という能力に優れた、膨大な魔力を持った一族で」
シェリは事務処理のように話し始めた。
「『探知』の力を恐れた先王は、ずっとキミたち一族を疎ましく思っていた。そして、こんな満月の夜、寝込みを襲って皆殺しにした。その膨大な魔力が怖かったんだろうね」
「そんなっ……」
メイは淡々と語られるにはあまりに酷い内容に、口を手で覆った。
「2年前、ヴァシルス様が王子探しに苦戦していた時、偶然発見したんだ。あばら家で、隠れたように暮らしている、ソウレンとキミを」
メイは、シロを見た。シロは聞いているのかいないのか、俯いたままで、表情がわからない。
「ヴァシルス様はソウレンを脅した。我々に協力しろと。ソウレンはキミの身の安全と引き換えに、王子を『探知』すると約束した」
シェリはシロの頭をグイグイと強く揺らした。
「キミが今こうして生きているのは、全部ソウレンのおかげなんだよ。感謝しなよ。ソウレンはそれは見事だった。王宮で使用していた王子の服や食器などを手がかりにして、痕跡を次々と見つけた。そしてついに!あのフィリエの石造りの家を発見したんだ」
「……」
メイは居ても立っても居られない気持ちになった。
「ああ、そうだ。確かアレムも会っているよ?金のブレスレットを受け取ったよね?ソウレンから」
「 ‼︎ 」
メイとアレムは目を合わせた。あの時の、誕生日の時の、腰の曲がった老人だ。
「ソウレンじいちゃん……」
シロが呟いた。どこにも焦点が合っていない目をしている。
「探知の能力、金のブレスレット……」
シロが頭を抱え、その場でうずくまったので、メイが肩に手をかけようとした、瞬間。
「思い出した。そうだ……あの日だ」
シロは呟いて立ち上がった。その顔はシロではない、全く知らない子のようで、メイは胸がざわめいた。
次回は、シロがどうやって記憶喪失になったのか、を明かします。




