ep.15 ヴァシルスの登場
メイの念願が叶い、大好きだった昔の家は再現された。が、ユラを追う王弟ヴァシルスが2人の前に立ちはだかって——。
土煙がおさまり、月光に照らされたヴァシルスが、くっきりと見えるようになった。
2m50cmはあろうかという大男だ。右手に剣、左手に斧を持っている。そのどちらの武器も160センチあるメイと同じくらいの大きさがある。
( あの剣と斧で壊したの? やっとできたあの家を? たった1人で?)
ヴァシルスの威圧感で金縛りにあったように、硬直したままメイは思った。
瓦礫の向こうには、家来らしき馬に乗った人々の姿がある。ヴァシルスは武器を背中に仕舞いながら、ユラに近づいて来た。
「これはこれはユラ王子、お久しぶりでございます」
ユラは地面にへたり込んだまま、杖を構えた。
「ムーヴ!」
この場から物を転移させる魔法だ。しかし、ユラの放った魔法は、手が震えているせいで、遠くの樹木に当たった。そして、パッとその樹木は消えた。
「ムーヴ!ムーヴ!」
ユラが次々に魔法を放つ。しかし家来に当たったり、瓦礫に当たったりして肝心のヴァシルスには当たらない。
「こちらが挨拶しているんですよ?ユラ王子」
ユラは恐れおののき、後ずさりしている。
「それが年上に対する態度か!?」
ヴァシルスの大きな手が、上へ振り上げ、ユラの胸ぐらを掴もうとした —— 。
その時。
メイは精一杯の力を振り絞り、ユラの元へ駆け、ヴァシルスに立ちはだかった。
ヴァシルスはすんでの所で手を止めた。
そして、メイを上から下へ舐めるように眺めた。
「ユラ王子、何ですか?この貧相な異国の女は」
ユラはバッっと立ち上がり、メイを自分の背中にかくまった。
「ああ!奴隷ですか?」
「やめろ!!」
ユラは叫んだ。
「メイは私の弟子だ!私の大切な人だ!」
いつも少し頼りなく、穏やかなユラの、これほどまでに怒りに震えた声は、聞いたことがなかった。ユラの背中がとても熱い。
「ほう?それではこの女が目の前で殺されたら、ユラ王子はどんな顔をするのかな?」
「イダッ」
ヴァシルスがメイの髪をつかんで持ち上げた。メイの足は宙に浮いた。
「あぁっっ」
頭の痛みで、意識が飛びそうになる。持ち上げられた衝撃で、メイは口の中を切ってしまったようだ。唇から赤い血が流れた。
「やめろ!メイを離せ!」
ユラの声は涙声になった。
「ガハハハハハッ!!」ヴァシルスはそれを聞いて大声で笑った。
「あなたが王宮へ帰ると言うなら、この女は殺しませんよ?」
「わかった!帰る!」
ユラは叫んだ。
「だからメイを下ろしてくれ!!頼む!」
「言いましたね?」
ヴァシルスはそう言うと、パッと手を離した。
ユラは慌ててメイを抱きとめた。
「ああ……メイ。ごめんね。僕のせいで」
ユラの目から涙が、メイの頬に落ちた。
「ユラ、王宮って何?帰るってどういうこと?」
メイは嫌な予感がした。
「大丈夫。僕が里帰りするだけのことだよ。メイは何も心配しなくてもいい」
ユラは優しく微笑んだ。
「アレムとシロに、僕が帰ったことを伝えてほしい」
ユラの笑顔が優しすぎて、メイはもう二度とユラに会えないような気がした。
「私も付いて行きたい!」
ユラは首を左右に振った。
「お久しぶりです。ユラ王子」
ヴァシルスのすぐ右後ろにいた、青髪の眼帯をつけた男が近づいて来た。
「シェリ……」
ユラはその男を見上げて言った。
「私の魔法で貴方を拘束します」
メイはユラがシェリという男に拘束されるのを、何もできずに見守った。
でも……。
ここままではダメだ。
「アレムー!アレムー!」
メイは精一杯の声で、アレムの名を叫んだ。
次回から、状況が変わってきます。




