ep.13 シロと家づくり
王弟ヴァシルスがユラとアレムを追う中、メイはユラが教えてくれた、家づくりの魔法を習得しようとしていた。記憶喪失の少年、シロも魔法が使えるようになってきて——。
ユラが魔法で家を作ってから、2ヶ月が経った。
ユラが作った家は、フィリエにある石造りの家を、そっくりそのまま再現したものだった。
「自分の頭にある家のイメージと、体に眠る魔力を練るんだ。そうすれば魔法を発動できる」
1分ほどある長い呪文も、メイは今ではスラスラ詠唱できる。でもまだ家を完成させることはできないでいた。メイが家を作りやすいようにと、ユラが森に作ったくれた広場。そこにメイはポツンと立ち、ため息をついた。
「洗濯だって、もう魔法でできるようになったのになぁ……」
「あんまり無理すると、また魔力切れになっちゃうよ」
シロがメイの横へ来て言った。いつの間にか陽が暮れようとしている。
「いいなぁ、シロは。もう色んな魔法、使えるもんね」
「うん。ユラにも『僕を超える大魔法使いになれるよ』ってこの前言われた」
シロの無垢な笑顔が、夕陽に照らされて眩しい。メイは自分の笑顔が引きつってしまうのを感じた。
「羨ましいな」
「そうだ!今からやって見せようか?」
シロがキラキラした目で、メイの手を取って言った。
「何を?」
「家づくりの魔法。オレもついに呪文を覚えたんだ!」
メイは複雑な気持ちになった。でも、嫌だとは言えず、「うん」と答えた。
シロが広場の中央に立って、杖を構える。メイはその場を離れながら、シロを見守る。
家が完成して欲しいような、して欲しくないような……。
——が。
シロは呪文は唱えず、メイの方を振り返った。
「作りたい家、オレには無いや。だって記憶喪失だもん」
メイはズッコケそうになった。
「そっか、それもそうね」2人は笑い、もう暗くなったからと、広場を後にした。
「シロの記憶、戻りそうにないね」
アレムが作った夕食をとりながら、ユラは3人に言った。
「街に行っふぁ時、オレのこと知ってる人ーって聞いふぁけど、1人も手、あげなかったよ」
シロは、パンを口いっぱいに頬張って言った。
「私も、小さい男の子を探している家族はいませんか?って、街で色んな人に聞いてみたんだけど……」
メイは言いながら言葉に詰まった。
「1人もいなかったんでしょ?」
シロは、もういいよと言わんばかりの顔で、寂しそうに笑った。
「なんでオレ、あの川に行ったのかなー。1人で行ったのかなー?ズズーッ」
アレムが作ったオニオンスープを、シロは音を立てて飲む。
「育ちが悪いってことだけは、間違いないですね」
アレムは呆れたような声で呟いた。
その夕食後、ユラが窓の近くでメイを手招きした。
「何?どうしたの?」
「見て。今日は満月だよ」
ユラが窓の上の方を指した。メイが窓から空を見上げる。真っ白な丸い月が、眩しいくらいに輝いている。
「満月の時が1番、全生物の魔力が高まるんだ」
「へえ!そうなの?」
「メイ、今からもう1度、家づくりをしに、広場へ行かない?」
ユラが優しく微笑む。
「2人で?」
「うん」
ユラの顔が少し赤くなっているのは、ワインのせいなんだと、メイは思い込むようにして、「行く」と返事した。
次回、満月の夜に何かが起きる予定です。




