第6章: 迫る取引
二人の間で取引を進めるかどうか?
田中の焦りと佐藤の慎重さ。
どう展開していくのか。
夏の日差しが研究室の窓から差し込む中、田中は携帯を握りしめていた。彼の目は熱意と焦りで燃えていた。向かいに座る佐藤は、資料に目を落としたまま、時折ため息をついていた。
「佐藤、もう決めたぞ。今すぐにでも、あの企業と連絡を取るんだ。彼らはこのガスに大きな関心を持っている。」
田中が切り出すと、佐藤は顔を上げ、眉をひそめた。
「田中…まだ準備が完全じゃない。少しでも情報が漏れたら、俺たちが開発したことがバレるし、リスクが大きすぎる。」
「そんなこと言ってる場合じゃない!借金取りが昨日も家に来て、家財道具まで差し押さえようとしてたんだぞ!」
田中は苛立った様子で拳を握りしめた。佐藤はその言葉を聞いて、目を閉じ、深く考え込んだ。
「分かってるよ、田中。でも、俺たちはこのガスの危険性をまだ完全には理解していない。もしも万が一、あのガスが暴走したら…」
「そんなこと言ってる暇はないんだ!このガスは完璧だ。俺たちはもう成功したんだよ!」
田中の声には確信があったが、その裏には恐怖も隠れていた。彼は、借金がもたらす圧迫感から逃れたい一心で、この取引に全てを賭けていた。
「でも…」
「佐藤、考えてみろよ。もし今すぐにでもこのガスを市場に出せば、俺たちは一瞬で借金を返して、大金持ちになれるんだ。あとは、好きなことをして、悠々自適に暮らせる。」
佐藤は田中の熱意に押されつつも、内心でまだ迷っていた。彼の頭の中には、ガスが引き起こすかもしれない悲惨な未来がちらついていた。
「俺たちはこのガスでどれだけの利益を得られるか、君も分かってるだろう?借金なんて一瞬で消えるんだぞ。」
田中は佐藤の腕を掴んで、さらに説得を続けた。佐藤はため息をつき、窓の外に目をやった。街の景色はいつもと変わらず、しかし彼の心は複雑な感情で乱れていた。
「分かったよ、田中。連絡を取ろう。だが、慎重に進めよう。リスクを最小限に抑えるんだ。」
佐藤は渋々うなずき、田中はすぐに携帯を操作し始めた。彼は企業の担当者にメッセージを送り、取引の詳細を詰める準備を始めた。
「やった!これで俺たちの未来が変わるぞ、佐藤!」
田中は満面の笑みを浮かべたが、佐藤はその笑顔にどこか不安を感じていた。
「でも、あのガスを本当に使うのか…?」
佐藤は自分に問いかけるように呟いたが、田中はそれを聞いていなかった。彼の頭の中には、すでに成功した未来が描かれていた。
その夜、二人はその取引を進めるための計画を練った。だが、佐藤の心にはまだ拭いきれない不安が残っていた。そして、その不安が現実になる日は、そう遠くはなかった。