第5章: 借金と誘惑
数週間が過ぎ、佐藤と田中の研究は続いていた。しかし、その間にも借金取りからの催促は厳しくなり、田中の精神は限界に近づいていた。
「佐藤、もう待てない。借金取りが毎日のように家に押しかけてくるんだ!俺たちは何とかしなきゃならない。」
田中は研究室に入るなり、苛立った声で言った。佐藤は資料を見ながら答えた。
「分かってる、田中。でも、今はまだ準備が整ってないんだ。データが揃うまで、少しだけ時間をくれ。」
「もうそんな時間はないんだよ!このままだと、俺たちの家も財産も全て奪われる…そんなの嫌だ!」
田中の声は震えていた。その恐怖が彼を追い詰めていた。
「俺だって同じ気持ちだ。だけど、焦って中途半端な状態で市場に出したら、もっと大きな問題になるかもしれない。」
佐藤は冷静に答えたが、田中は納得できなかった。
「そんな悠長なことを言ってる場合じゃないんだ!今すぐにでも、このガスを売り込むべきだ。大企業に持ちかければ、すぐに金が手に入る!」
「確かにそうかもしれないが、俺たちは慎重に行動しなきゃならない。データが揃うまでは、手を出さない方がいい。」
「お前、分かってないよ。俺たちにはもうそんな余裕なんかないんだ…」
田中は拳を握りしめ、やり場のない怒りを抑え込んでいた。
その時、田中の携帯電話が鳴った。画面に映るのは、以前取引したことのある海外の企業の担当者からのメッセージだった。
「…佐藤、ちょっとこれを見てくれ。」
田中は携帯を佐藤に差し出した。そこには、「あなたたちの発明に非常に興味があります。すぐにでも詳細をお聞かせください。」というメッセージが書かれていた。
「これは…」
佐藤は眉をひそめた。
「これだよ!これが俺たちのチャンスだ!このまま海外に売り込めば、すぐに大金が手に入る!」
田中は興奮を隠しきれず、佐藤を説得しようとしたが、佐藤は黙って考え込んでいた。
「でも…まだ準備が…」
「もう待てないんだよ、佐藤!これを逃したら、もう後がないんだぞ!」
田中の切迫した声に、佐藤も揺さぶられた。借金に追い詰められた彼らにとって、今が最後のチャンスかもしれない。佐藤は深いため息をつき、考えをまとめようとした。
「…分かった。だが、慎重に進めるんだ。焦りすぎると失敗する。」
佐藤は妥協し、田中の提案を受け入れたが、内心ではまだ不安が残っていた。
「ありがとう、佐藤。これでやっと俺たちの人生が変わる…そうだろう?」
田中は笑顔を見せたが、その目にはどこか狂気じみた光が宿っていた。
二人は、この新たな展開が何をもたらすのかを考える間もなく、次のステップへと進むことにした。