第4章: 反対と野心
実験の成功から数日後、佐藤と田中は研究室で次のステップについて話し合っていた。だが、その会話には緊張が漂っていた。
「佐藤、俺たちはついに成功した。今こそ、このガスを商品化するべきだと思わないか?」
田中は興奮気味に言ったが、佐藤は腕を組んで黙っていた。
「商品化するのはいいが、あのガスの効果は予想以上に強力だ。下手に使えば、環境にとんでもない影響を与えるかもしれない…」
佐藤は慎重に言葉を選びながら答えた。
「確かにそうかもしれないが、それでも俺たちはこれを世に出さなきゃ意味がない。こんなに効果的な冷却ガスなんて、他にはないんだぞ!」
田中は焦燥感を隠しきれず、佐藤に迫るように言った。しかし、佐藤はその勢いに押されることなく、冷静に続けた。
「でも、それが原因で地球全体が氷河期に突入する可能性があるんだぞ?人類の命運がかかっているんだ。」
「…じゃあ、どうしろって言うんだ?借金を返さないと、俺たちはもう後がないんだぞ!」
田中の声は荒くなり、彼の野心がむき出しになっていた。佐藤はそれを見て、一瞬ためらったが、意を決して口を開いた。
「俺たちは、このガスを慎重に扱うべきだ。もしかしたら、使い方を制限するか、あるいはもっと安全な方法を考える必要がある。」
「慎重に…?そんなことをしていたら、チャンスを逃すだけだ!俺たちは今、すぐにでも大金を手にすることができるんだぞ!俺はこのチャンスを無駄にしたくない!」
田中は佐藤の意見を否定し、机を叩いて立ち上がった。佐藤はその姿を見て、彼の焦りがどれほど強いのかを理解した。
「分かったよ、田中。君の言いたいことも分かる。でも、俺たちには考えなきゃならないことが山ほどある。まずはリスクを最小限に抑える方法を探すんだ。」
「そんな悠長なことを言っている間に、他の連中に先を越されるかもしれないんだぞ!」
田中は苛立ちを隠せずにいたが、佐藤は冷静さを保ち続けた。
「それでも、俺たちはこのガスがもたらす可能性とリスクの両方を理解するべきだ。もし地球が氷河期になったら、俺たちだけでなく、すべての人がその影響を受けるんだ。」
二人の間に重い沈黙が流れた。田中は何か言おうと口を開いたが、結局言葉を飲み込んで座り直した。
「分かったよ…じゃあ、どうする?どこから始めればいいんだ?」
田中がやや折れた様子で聞くと、佐藤は少しほっとしたように微笑んだ。
「まずは、このガスの影響をさらに検証しよう。もっとデータを集めて、どんな条件で使うべきかを明確にするんだ。」
「それには時間がかかるだろうが…やるしかないな。」
田中は渋々納得し、二人は今後の方針を話し合い始めた。しかし、その裏では田中の野心が再び芽を出し始めていた。