第3章: ついに成功
灰色の曇り空が広がる朝、研究室の窓から差し込むわずかな光が、実験台に散らばる器具や試薬を照らしていた。佐藤と田中は、無言のまま準備を進めていた。気温は蒸し暑く、じめじめとした空気が彼らの額に汗を滲ませた。
「今日がその日だな、田中。」
佐藤が重い沈黙を破った。彼の目は、テーブルに置かれた大きなガラス容器を見つめていた。その中には、淡い青色の液体が揺らめいている。
「そうだ、佐藤。これが俺たちの最後のチャンスかもしれない。失敗は許されない。」
田中も容器を見つめ、心の中で何度も確認した計算を思い返していた。それでも、どこかに不安が残っているのは否めなかった。
「本当にこれでいけるんだろうか…」
佐藤が呟くと、田中は力強くうなずいた。
「いけるさ、俺たちはこれ以上ないくらい慎重に準備をしてきたんだ。このガスが成功すれば、全てが変わる。俺たちはやっと、この地獄のような借金生活から抜け出せる。」
「そうだな…これで失敗したら、どうする?」
佐藤が投げかけた問いに、田中は一瞬黙り込んだが、すぐに目を細めて答えた。
「失敗は考えない。これが俺たちの答えだ。やるしかないんだよ、佐藤。」
佐藤は深呼吸をし、田中の決意に感化されるように、うなずいた。彼は容器の上部に取り付けられたバルブに手をかけ、ゆっくりと回し始めた。
「いくぞ…」
ガラス容器の中の青い液体が静かに蒸発し始め、次第に淡い霧となって室内に広がっていく。その瞬間、室内の空気が一気に冷たくなった。
「成功だ…!」
佐藤が叫ぶと同時に、田中は急いで実験室の温度計を確認した。数字が急速に下がり、涼しい空気が肌を刺すように感じられた。汗ばんだ額は瞬く間に乾き、まるで真夏の暑さが一瞬で消え去ったかのようだった。
「これで、俺たちの未来が変わる…本当に…」
田中は小さくつぶやき、佐藤と目を合わせた。二人の目には、長年の努力が報われたという達成感が浮かんでいた。
「ちょっと待て…」
ふと、佐藤が窓の外に目を向けた。外の景色は、曇り空から一変して、遠くの雲が霧のように薄れ、冷気が漂っているのが見えた。
「どうした?」
田中も外を見て、同じ異変に気づいた。
「このガス、効果が強すぎないか?こんな短時間で、こんなに冷えるなんて…」
佐藤の声が低く響いた。田中もその言葉に不安を覚え、再びガスの量を確認した。
「いや、確かに計算通りの量を使ったはずだ…でも、この冷え方は…」
「まさか…俺たちは一体何を作ってしまったんだ?」
佐藤が言葉を詰まらせると、田中もまたその恐ろしい予感に駆られた。二人は急いで実験を止めようと動いたが、すでに部屋の温度はさらに下がり続け、窓の外の街も霜に覆われていくのが見えた。
「まずい…このままだと…」
田中の言葉が途切れ、二人は何か恐ろしいことが起こる予感に駆られた。彼らは、今後の行動を決めなければならないという重圧が、胸を締め付けた。