4. 真実の愛
結果として、侯爵様のプレゼントはなんだか微妙な感じになったそうです。
いえね、プレゼント自体は良かったみたいなんです。マリエ様はとっても喜んでたみたいですし、夜会に仕立てたドレスをまとって現れたマリエ様はとても輝いていたそうです。
じゃあどうして微妙なのか?
その夜会で、また1人マリエ様という沼に落ちた人が出たらしいんですよね。
罪深いのう。
あ、いけない。脳内でつい変な感想を浮かべてしまいました。口に出してないかしら。
「残念ですが出てましたわ」
笑いをこらえながら教えてくださったのは、ディアーヌ様。
「あら、私ったら。失礼いたしましたわ」
公爵家の薔薇が素敵なので、ディアーヌ様をお招きして東屋でお茶会をしていた所です。
「でも、本当に次から次へと殿方がマリエ様にどハマりするんですよね。沼に落ちるって言い得て妙ですわね」
そう。本当に次から次へとですわよね。
王太子様しかり。侯爵様しかり。側近の皆様しかり。
「それで新しく沼落ちした方はどなたですの?」
「それが、隣国の国王陛下ですの」
あああぁ。それって本当に傾国の美女ってやつですね。
隣国は我が国より国力が強く、あまり機嫌を損ねたくないお相手です。
マリエ様を巡る争いとか起きたらもう不利な展開になる可能性が高い気がします。
それにしても、どうしてこんなにも次から次へと皆が夢中になるのでしょうか?
晩餐の席でなんだかどんよりしている侯爵様を見ながら、マリエ様の魅力の元とは…?と考えていると、不意に侯爵様が
「マリエの魅力がどうしたのだ?」と聞いてきました。
あら、また口に出ていたのですね。
いけない。
最近油断しすぎですわね。
でもチャンス!
実は、前々から聞いてみたかったのです。
「…お茶会で、隣国の国王陛下がマリエ様を見初めたと話題になっておりましたの」
「…ああ」
「こんなにも皆様から愛されてしまうマリエ様の、どのあたりがそこまで皆様を夢中にさせるのだろう?と思ってしまいまして」
ほんと、シンプルに疑問です。
「…どのあたりが?」
「もちろん美しい方なのは承知してますのよ。でもわたくし、クラスも違っておりましたし遠目に拝見したことがあるくらいで」
正直に言うと変に巻き込まれたくなくて、近寄らないようにしておりました。
だって、いじめたとか嫉妬したとか卒業式前にも騒動になってましたしね。
「そうか」
「美しい方々の間でも抜群に美しいのでしょうか?
それともお声が天上の音楽のように麗しいのでしょうか?」
「そうだな。確かに美しいとは思うが、なんと言うか可憐なのだ。こう…守ってやらなくてはという気持ちになってしまう」
「まあ」
「それは、初めてお顔を会わせた時からそうでしたの?」
「そうだ。いや…な…マリエが涙ぐんだその瞳がキラキラしていて、その時守ってやらなくては!と思ったのが最初な気がする」
涙ぐんだ瞳!それは確かにキラキラしそうです。
光を反射するでしょうからね。
「涙ぐんでらしたなんて。何かお辛いことがあったのでしょうか?」
「ああ、確か慕っていた乳母の形見を学園の窓から投げ捨てられた、と。それで必死に探していたらしい」
まあ、なんて事でしょう。
「おいたわしいですわね。その形見は見つかったのですか?」
「見つかりはしたのだが、壊れてたな。確か真珠のブローチだった」
「それで、マリエが、こうぎゅっと胸元にブローチを握りしめて、涙ぐんでな。投げ捨てた相手のことを罵ることもできずに辛そうにしてて。
それがあまりにも可哀想で可憐で。
この娘を守ってやりたいと思ったのだ」
聞けば、その出会いは春のことで、桜の花びらがハラハラと舞っていたそうです。
とっても印象的ですわね。
侯爵様はそれからマリエ様への愛を隠すことなく語り始めました。
わたくしは、それに対して嫉妬心を示すこともなく、侯爵様の話を好意的に聞き入れました。
だって…
とっても面白かったんです!
まず、ひとつ一つのエピソードが、舞台を観ているように完成度が高いです。
それからおふたりの仲が進展していくきっかけにいい感じに課題や邪魔をする人が出てきます。
侯爵様が進んで色々話をしてくださるのをとっても楽しみに伺い、毎回お別れした後に、伺った内容をノートに書き出してみました。
だんだん量が多くなって、時系列順にまとめ直したあたりでわたくし、こう思うようになりました。
マリエ様は、名女優なのだと。
そしてその手腕で王太子だけでなく、その側近たち全てを魅了し、逆ハーレムを築いているのですね。
すごい才能です。
だって、王太子様と侯爵様はもちろん違う人なのですから、それぞれ好みや悩みなど違うはずなのです。
それなのにその全ての殿方を確実に自分の魅力で落とすなんて。
その手腕にほれぼれしてしまいます。
もっと他にもおいしいエピソードがないかしら?
わたくしは、機会があるごとに侯爵様のお話を熱心に伺い続けました。
後々聞いた話では、わたくしのその姿勢に侯爵様は少しずつ好感を持つようになったそうです。
え?薄々感じてましたけど、侯爵様ってちょろい人なのかしら?