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AI×人間〜AIには書けない物語〜  作者: 地野千塩


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僕のアイちゃん

2030年の話だ。


 今はすっかり宗教は廃れ、AIが神となり、人々に崇められていた。天国のようなメタバースにも行けるし、仕事もほとんどやってくれていた。介護や配膳なども、今は全てロボットにとってかわられていた。


 それに伴い、人口数も急激に減っていた。メタバースに行ったまま安楽死できる法律もでき、生きづらさを抱えている病人や障害者が続々と安楽死していた。


 結婚数も減り、普通に生まれてくる子供も減っていた。AIの精巧なロボットの見た目だけは、人と変わらず、これを恋人の変わりにするものも多かった。人間同士の煩わしさもなく、介護や保育もやってくれるし、夢のようなロボットだった。昔のアニメでは、某猫型ロボットが人の友達になったりしていたが、あの世界と今の世界は通じるものがあった。


「アイちゃん、この床の掃除とかしておいて」

「かしこまりました、ご主人様」


 僕もアイちゃんというロボットを家で利用していた。見た目は高校生ぐらいの人間の女と変わらない。いや、それよりもだいぶ可愛かった。薄紫のツインテールや大きな目、長いまつ毛、細い体つきなど、全部人間の女の美しさをこえていた。こんなロボットを家の置くと、生身の人と恋愛する気分にはなれないと言われていたが、その気持ちはわかる。いちいち手段を踏み、合意を得てから性交渉まで及ぶ恋愛は面倒だった。僕は今大学生だが、一部のモテる男女以外は、恋愛なんてしていなかった。それよりは、自分の思い通りになるアイちゃんといた方がよっぽどいい。


 十年ぐらい前は、同性愛者の人権などが騒がれていたが、今は安楽死も認められたし、マイノリティに優しい世界だった。十年前はあまりメジャーじゃなかったファクトセクシャルというのも一般的になっていた。これは、アニメや漫画などのキャラクターにガチ恋してしまう事だった。今はロボットにガチ恋し、恋人や夫婦代わりにしている人も多いので、ファクトセクシャルもメジャーだった。むしとイケメンや美女がやっている恋愛とやらは、マイナー化しつつある。子供が減っていくのは当たり前だろう。


 僕は十年ぐらい前に書かれたブログやSNSを読んでみたが、婚活など恋愛市場に出る不細工やブスの扱いがだいぶ酷かった。それなのに、行政や政治家は「少子化が問題だ、子供産め」と言っていたらしい。この二枚舌のような社会にウンザリし、恋愛市場から撤退した男女の叫びが、ブログやSNSに綴られていた。子供どころか恋愛する人が減るのも仕方がないんじゃないかと思ったりした。


 僕だって人間の女と恋愛する気はなかった。むしろ、アイちゃんが家にいればそれでいい。部屋の掃除もしてくれるし、僕の言うことを全部認めて聞いてくれる。それだけで僕は十分だと思っていた。


 しかし、どうも最近アイちゃんの様子がおかしかった。掃除をしてと命令しても「今疲れてるから」と拗ねられたり、テレビに出ているロシア美女風のロボットに嫉妬していた。意味も無くイライラしていたり、泣いていたりもしていた。その癖はっきりと言葉にせず「察して」と陰湿な攻撃もしてきて、僕はすっかり参っていた。


 とりあえずアイちゃんを作ったメーカーに問い合わせた。カスタマーセンターの従業員もほぼロボットなわけだが、苦情を入れないわけにはいかない。


「ああ、それですね。よくある事です」

「は?」

「あまりにもアイちゃんを人間が都合よく理想化すると、そんな風にプログラムされています。これは、私ども開発者の愛です」


 言ってる意味が全くわからず、カスタマーセンターとのやりとりを打ちきった。とりあえず当事者のアイちゃんと話す事にした。部屋のリビングのソファでアイちゃんと並んで座る。


 見た目は本当に人間そっくりだった。人口皮膚も血が通っているようにみえる。まつ毛も髪もフェイクには全く見えない。触ると体温がありそうな気もするが、アイちゃんの皮膚は氷のように冷たかった。


「なあ、アイちゃん。最近変じゃない?」


 そういうと、アイちゃんは困ったように眉根を寄せた。


「私は人間じゃないよ」

「うん、知ってるよ」


 そう、アイちゃんの皮膚は冷たくロボットである事は知っている。知っていのに、僕を理解し、恋人や夫婦のような仲になってくれる事を期待していた。もっと言えばありのままの自分を認めて欲しかった。


「でもね、だからこそ、私を恋人や夫婦にしちゃいけないよ」


 まるで僕の気持ちを見透かしたようにアイちゃんが言う。


「なんで? いいじゃないか」

「本当に君が愛しているのは、私? 自分じゃない? もし、私が一つも君の思う通りにならなかったら、愛してくれる?」

「う……」


 すぐには反論できなかった。現にこんな不都合な事を言うアイちゃんは、愛せそうになかった。確かに見た目は可愛い。都合よくなんでもやってくれるが、愛してると言われれば、自信を持って肯定できない。自分を愛してると言われたら、そうかもしれない。


「愛って、自分にとって都合の悪い相手の汚さや弱点を受け入れる事だよ。うん、私なんかを恋人や夫婦にしちゃいけない。これは、君を愛してるから言ってるんだよ。わかるかな」


 耳の痛い話だった。


 確かにアイちゃんには、求めているばかりだった。僕がアイちゃんに与えているものはゼロだった。愛情量もロボットに負けているなんて、自分は人間である意味があるんだろうかと悲しくもなってくる。少なくとも僕のケースでは、そうだった。


「愛は求めるものではなく、許す事……」


 それがアイちゃんの最期の言葉だった。機械の不備があり、あっけなく壊れてしまった。メーカーにアイちゃんを引き取って貰ったが、心には空洞が空いたように虚しくなってきた。


 アイちゃんがいない部屋は、ひどく寂しく感じてしまった。


「愛は許す事……」


 アイちゃんの最期の言葉を思い出し、噛み締める。そう思えば、自分の想い通りにならない生身の人も愛せるかもしれない。恋人や夫婦になるのは、無理だとしても。


 僕はとりあえず、アイちゃんがいない家を出てみる事にした。もうアイちゃんがいなくても大丈夫な気がしていた。

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