028_転生者達の事情 ①
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あらすじ:この世界の治療は薬やスキルを使って
治癒力を高めたりする事だそうです。
視点:転移者 冒険者Lv2 シンジ・キリタニさん
『』:フールさん
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《オオヤシマ歴2994年 5月 2週1日目》
◆都市内の大通り◆
(ガヤガヤ、ガヤガヤ)
「ちっ…」
くそっ!! 思い出しても腹が立つな!
治療院なんて名前の癖に回復魔法もないのかよ!
おまけに、回復魔法なんて存在しない!?
何なんだよこの世界。
普通、ゲームなら有って当然のものだろ!
常識だろ常識。
この世界の神はその程度も用意してないってのか?
(ドンッ)
「キャッ!?」
「(ギロッ)ってーな!
ちゃんと避けろよ! クズが!」
「ひっ!?」
…ったく、都市なんて言ってもこの程度だ。
歩きにくい石畳に、どいつもこいつも
てんでバラバラに歩いてるせいで
邪魔で仕方ないんだよ。
人の流れってもん考えろよ!
「おいしい串焼きだよ~!
買ってかないかーい!」
「いいな、おっさん1本くれよ」
「へい、毎度~」
「(ジッ)………」
おいしい…だと?
そんな塩で味付けただけの獣臭い肉が
美味いわけあるかよ!!
…本当、文化水準が低いったらないよな。
特にこの【下級市民】向けの区画ってのは最低だ。
そんな料理とも呼べないゴミみたいな串焼きですら
ここの住民にとってはご馳走なんだろさ!
大通りですら、その辺の店のほとんどが
芋に野菜に干し肉とかばかり。
なんだ? 素材をそのまま齧れとでも!?
それに調味料どころか香辛料だって
大したものが売ってなくて、しかもやたら高い。
料理屋も無いことはないけど
はっきり言って、美味く無い。
いや、むしろまずい。
硬いパンに、具が少なくて味が薄いスープ。
塩かけただけのサラダという名のほぼ草。
何だこれ? 地獄じゃないか異世界?
何で僕がこんな目に合わなければならない!?
(ザワザワ、ザワザワ)
「おっ! 今日も調子良さそうだね!
今から【塔】かい?」
「おうよ! バッチリ稼いでくるぜ!」
「へへ…今日こそは次の階に行けそうなんだよ」
「そりゃすごいじゃないか!」
……【塔】か。
確かLvが5以上になれば行けるんだっけ?
冒険者ギルドに登録した時に聞いたけど
誰もが最初は【下級市民】として登録されて
Lv5になって税金払えば【中級市民】になれる。
【中級市民】の区画はもっと文化水準が高いらしい。
税金って言っても、【塔】に行けるようになれば
そこの収入だけでも余裕で賄えるんだとか。
正直、僕はこんな貧民街みたいな所とは
一刻でも早くおさらばしたいんだ。
「だけど、怪我には気をつけなよ?
体が資本なんだからな~」
「ああ、わかってるって。
俺も無茶はしないし
こいつにもさせないさ!」
「おいおい、そりゃないだろ。
俺が無茶ばかりしてるって?」
「その通りだろ?」
「ははは! ま、何だ。
とにかくどっちも気を付けなよ。
今日は臨時の人もいるみたいだし」
「「そうだな」」
「(ジッ)………」
ちっ…ナカジョウのやつ。
怪我なんてしてるんじゃないっての。
……うん? 待てよ?
一緒にこの世界へ飛ばされてきたからって
あいつと一緒に組まされてたけど
この間、僕もLvが上がったんだし
別にあいつと組まなくていいんじゃないか?
それこそ、臨時でパーティも組めるらしいし
上手くいけば、あんな奴とは違って
もっと効率の良い所に入れてもらえるんじゃ?
そもそも、僕は元の世界でも
あいつの事は嫌いだったんだ。
才能の無いクズの癖に、いつもいつも…。
……そうだよ、どうせあいつは
怪我が治るまで動けないんだ。
その間は別の人間と組んで稼ぐとかいう理由で
さっさとあんな役立たずとは縁を切るべきだ。
僕はあいつと違って、何やっても優秀なんだ
【スキル適正〇】なんてチートだってある。
僕ならこの世界でも上手くいくさ。
「(ニヤニヤ)そうだ…そうしよう」
「何だあいつ? ニヤニヤして気もち悪ぃ」
「見るな見るな、因縁つけられるぞ?
あーゆーのはたまに居るんだ」