027_この世界の治療事情
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あらすじ:フールさんは怪我をしたようです。
視点:ルオ治療院 院長補佐 クーデルさん
『』:フールさん
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《オオヤシマ歴2994年 5月 5週6日目》
◆ルオ治療院 待合室◆
「何だそれ!? 治療院っていう癖に
回復魔法もないのかよ!!」
あ───…またこの手のバカかー。
ホント、【転生者】ってのは
毎度毎度同じ事言ってくるんだろね?
ホント、バッカじゃないの?
「あのね…そんなものは存在しないんだよ。
バカ言ってんなら早く帰ってくんない?」
「なっ!? バカだとう!?」
(ザワザワ、ザワザワ)
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「待たせてしまったかね。
いやはや、すまんな」
『かっかっか! 気にしなさんな。
俺は気にしちゃいないし
急いでる訳でもないしな!
むしろ治療なんて必要ないかもし…』
「いや! 治療はちゃんとしてよ!」
『お、おう…』
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「ま、こんなものだろ。
無理しなきゃ2・3日で完治するさ。
早めの薬草と【鈍足再生】のおかげだな」
「(ホッ)は~~…良かった。
結構、派手に血が出てたから
実は心配だったのよね…」
『(カラカラ)かっかっか! ほらな?
だから心配しすぎって言ったろ~』
「いや、アンタさ、笑ってるけど
重症ではないってだけで
軽傷でもないんだよ? ホント」
ウサギの角掴んだって言ってたけど
アレ、シマシマに見える部分って
内っ側に溝になってるんじゃなくて
外側に出てるんだよね。
だから刺さった時って致命傷になり易いし
一度刺さったら抜けにくい作りになってる。
そんなのが突っ込んでくるのを
手で握って止めたら、そりゃそうよ。
皮どころか肉までズタズタになるわよ。
「そうだぞ? ここ最近うちの所にも
よくウサギに刺された奴が飛び込んでくるが
半分は死んでるし、死んでない奴も
ほとんどが重症なんだぞ~?」
「…っ!!(ゴクリ)」
『かっかっか! 結果良ければヨシってな!
なんせ、ロゼちゃんも無事だったし
俺も大丈夫だったんだからな!』
「はぁ…確かに結果的には助かったけど
本当に大人しく治療しなさいよ…?」
『任せとけ!』
うーん……それにしても…。
あ、だめだ、やっぱり気になるわね。
「……ねえ、アンタちょっと良い?」
「はい?」
『おう?』
「少し、聞きたいんだけど
アンタって【転生者】よね?
その服着てるんだし」
『まあな! ただ、俺はいっぺん死んだ後に
元の世界で生き返らえらせてもらって
こっちに連れてきてもらったから
【転移者】って事になるらしいぜ?』
「え? そうなんだ…えっ!?
生き返って? えっ? え!!?
……ま、まあその事は一旦いいわ」
「は、はあ…」
「どうしたってんだ? クーデル」
「えっと、アンタって、転…移者?なのに
回復魔法がどうのとか、何で言わない訳?」
『回復魔法? 何じゃそら』
「あ──…その事か」
「回復? それって…
スキルとは違うんですか?」
「むしろアタシが聞きたい側よ。
はあ…さっきもそんな事言うのが来てたわ。
ほら、アンタ達の前に来てた奴」
『おう、何か怒鳴っとったな。
そういや、回復魔法がどうのとか』
「居たね…結局そのまま帰ったみたいだけど」
「あー…それなあ、俺も詳しくは知らんが
元の世界には有ったらしいぞ?
何回聞いても意味が分からんかったがな」
「そうなんですよね、アタシも毎度毎度
意味わかんなくて、困ってるんですよ、先生。
基本的に対応して症状聞くのアタシだし」
「…あの、それってスキルにあるような
傷の直りが早くなるとかとは違うんです?」
「違うらしいぞ? あいつらが言うには
なんでも、直ぐに傷が塞がって
骨が折れてても元に戻るらしいし。
体力とかも回復するらしい…」
「はっ? 元に!? え? 体力も?」
『………ほー?』
「ちなみに、他の都市ではどうか知らんが
少なくともこの都市で治療と言えば
薬草やスキルで、怪我や病気の治りを早くする。
つまり元々持ってる本人の再生力の強化だな。
まあ、それを応用した血止めや
血の増幅なんてのも有るには有るが
あいつらの言ってるものは別物だろな」
「ね? 意味わからないでしょ?
一応、【高速再生】ってスキルなら
すごい速さで傷が治っていくんだけど
相応に体力使う上、骨折も変な形でくっついたり
後々怪我の直りが遅くなったりとか
後遺症も出たりするんだよね…」
そんな、呪文唱えるだけで
怪我も骨折も体力まで元通りに治るとか
もうそれは奇跡っていうんじゃない?
神様しか無理でしょ、そんなの。
『………あっ』
「あっ? 何か知ってるの? フール」
「え? ホントに?」
「ほう!? ぜひ聞かせてもらいたい」
『あ、いやな? そういや神様に
生き返らせて貰った時に聞いた気がする。
…確か、俺の魂に刻まれた記憶を辿って
肉体を修復したとかなんとか?』
「…ふうむ?」
「…へ、へえ…神様がねえ」
『…ん? ああ、そうだ、思い出した。
昔に魂友が言ってたわ。
多分それって時間を巻き戻してるんだとよ』
「時間? 巻き戻…るの?」
「ほう……時間、時間ね。
なるほどなるほど?」
『魂友が言うには
{魔法の道具やスキルでも時間を早めたり
遅くしたりはできるんやから
逆に戻す事も可能なんちゃうか?}…ってな』
「「あ──……」」
「…前から思ってたけど。
フールからよく聞く魂友って人
何なのよ」
「なるほど、良くはわからないけど
何となく理解はできそうな気がする。
まあ理解できても、誰も使えないから
意味はないんだけどね」
「ま、その通りだな。
俺達は俺達のできる範囲で治療するだけさ。
…ところで、もう一つ聞きたいんだが?」
『おっ! 何でも聞いてくれていいぜ?』
「ああ、それじゃ…ごほん。
君って神様にえーっと肉体の修復?
それで、生き返らせて貰った…のに?
肉体と言うか、生命力と言うか
何でそんなに衰弱してるんだ?
神様もそこまではやってくれなかったのか?」
『あー…それな…それは…』
「「「それは?」」」
『俺も知りたいなぁ…』
「……そっか。
うん、今日の所は帰りたまえ。
ゆっくり休むんだぞ」