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幼馴染みにフラれたのでSNSで知り合った女子をデートに誘ったら、幼馴染みの裏アカだった。しかもOKでギャルで可愛かった。

作者: しいたけ

「おほっ! 映画だ……! 映画の先行上映会のペアチケットが当たったぞ……!!」


 郵便受けに入っていた封書をペタペタと上げ下げし、感謝のダンスを一分弱。


「つ、疲れた……!!」


 息切れによるクールダウンを余儀なくされ、仕方なしに椅子に座る。

 

「しかも主演と監督の挨拶付き。これは誘うしかない!!」


 椅子の上に座りグルグルと回る。回る。そして回る。


「おえ……」


 目眩によるクールダウンを余儀なくされ、仕方なしにベッドへ横たわる。


「誘うぞぉ……! これなら間違い無しに来てくれるぞぉ!」



 さて、ここからはマジで落ち着いて考えるべきだ。

 誘うは紗也華(さやか)、幼馴染み。

 行くはデート、先行上映会。

 そして二人はラッッッッヴの極みに!!!!


「…………さて、どうやって誘うべきか」


 電話……直接……メール……。


「なるべく証拠が残らない方が良いな」


 万が一、億が一、兆が一! お断りされた時の為の予防線を張っておこう。


「明日の帰りにそれとなく偶然を装って誘ってみよう。ダメなら切腹な」


 男貫島、一斉一大の大安売り!! いや違う、大勝負!

 ……ダメだ、これでは先が思いやられる。




 

「あ、あのさ──」

「陸斗、まだ居たの? さては怒られてたなぁ?」


 部活を終え、そろそろ帰りそうな頃を見計らって紗也華に声をかけた。外の手洗い場に丁度良く人が居なかったので、行くなら今しかないと覚悟を決めた。


「来週の土曜さ、映画……観に行かないか?」

「えっ!? どしたの急に」

「先行チケット当たったんだけど……ペアでさ。ほらあの今流行りの──」

「半ピース鬼術ファミリー?」

「そうそう!」


 封筒から上半身を乗り出したチケッツを見せると、紗也華は目をキラリと輝かせた。乗り気か! 乗り気なのか!?


「紗也華ー、帰るよー」

「あ、うんー」


 と、間の悪いことに紗也華の部活仲間と思しきモブ女達がゾロゾロと三人ほど現れた。咄嗟にチケッツ君を後ろへ隠す。


「今、ワン地下呪滅スパイのチケットみたいなの持ってなかった?」

「えっ!? 紗也華デート!? ゴメン!

タイミング悪かった!?」


 モブ女のくせに何という動体視力の良さだろうか。

 あっという間にお誘いだということを見抜かれ、俺は恥ずかしさのあまり喉が貼り付き声が出ない……!


「お熱いねー! 紗也華と貫島君って幼馴染みだっけー!? ヒューヒュー!」


 モブ女Aが突然はやし立ててきた。


「──ちっ、違うわよ!」


 紗也華の目がマジになった。ヤバい、雲行きとか暗礁とかそんなモンじゃない位にヤバい気がする……!!


「こんな奴とは行かないわよ!! 誘われても迷惑なだけ!!」

「──!?」


 プンスカとキレた紗也華は、足音荒く、去ってしまった。残された俺、惨めだろ。


「……貫島君、ごめん」

「遅い」

「……ごめんね!」


 スライムが逃げるように、ダダダダダッ! とモブ女達が走り去って行く。残された俺可哀想だろ。


「フラれたやん……切腹ぅぅ?」


 突然のことに涙も出ない。ただ真っ白で、思考が鈍い……。




「ただいま……」


 いつの間にか帰宅。

 いつの間にか食後。

 いつの間にか風呂上がり。

 いつの間にかベッドの中。


「……やべ。泣きそう」


 机の上のチケッツ君とチケッツちゃん。君達は何一つ悪くない。


「このやりきれなさをどうしたものか」


 そっとスマホを取り出し、SNSを開く。

 普段ウチで飼ってる猫の写真を載せているせいか、フォロワーは7000人も居る。


【幼馴染みを映画に誘ったらフラれました。泣きそうです。助けて下さい】


 ありのまま、そっと呟く。


 ──ピコン


【ドンマイです】


 すぐに慰めの言葉を頂戴する。ありがたい。


 ──ピコン


【きっと次がありますよ】


 次ダメならマジで終わりぞよ。立ち直れる気がしない。


 ──ピコン


【何の映画ですか?】


 誘った映画は悪くない。それは絶対だ。


【族赤×刃戦です。先行上映会のペアチケットが当たりました】


 ──ピコン


【えーっ! もったいない!】


 だろ?


 ──ピコン


【もう一度誘ってみたら?】


 あんな避けられ方したらもうダメじゃないかなぁ?


 ──ピコン


【ドンマイ】


 ありがとう。


 ──ピコン

 ──ピコン

 ──ピコン


 次々と温かいメッセージを頂く。

 名も知らぬ人の温かさにちょっと涙腺が破裂しそう。


 ──ピコン


【宜しければ私と行きませんか?】


 ん?


 可愛らしい、金髪の女子のアイコンの方から、まさかのお誘いを受けた。

 けどオイラ知ってるぜ? 中身はオッサンなんじゃろ?


「……」


 アイコンをタップし、プロフィールを覗く。

 名前は『やっぴー』

 職業は『女子高生』

 住まいは……同じT県だった。

 普段はあまり何かを発信している様子は無い。たまにコンビニで買った新発売のパンの写真を載せたりしているくらいだった。


 ──ピコン


「うおっ!」


 やっぴーからDM(ダイレクトメール)が届いた。

 恐る恐る中を開く。


【先行上映会、私も応募したのですが外れてしまいました。幼馴染みさんの事は残念でしたけれど、私で宜しければ癒してあげますよ~♪】


 と、写真付きで嬉しいメッセージ。

 写真には金髪で舌を出しながらピースをするやっぴー氏がデカデカと写っていた。よくある加工が施されており、目がデカい。そして見るからにギャルだ。今にもスカートの中が見えそうな位に短すぎて俺が困りそうだ。


【メッセージありがとうございます。上映会の会場G市の駅前なんですが大丈夫ですか?】


 とりあえず返事を返してみる。オッサンではなさそうだったから。これでオッサン来たら泣くぞおい。


 ──ピコン


【近くなのでダイジョーブでーす♪】


 何という事だろうか。

 紗也華にフラれた直後にこんな事があろうとは……!


 ……いや、待て待て。


 相手は上映会に行きたいだけなんじゃないか? 応募して外れたって行ってたし。

 でもまぁ、それくらいで良いかもな。

 変な期待は止めておこう。


【では来週の土曜日、駅前の噴水広場の前で待ってます。服装等については当日写真を送ります】


 ──ピコン


【りょ! マジ嬉しい! 楽しみにしてるねー☆】


 大量の絵文字もおまけに、俺は女子と映画デートをすることとなった。

 やべ、当日何着ていこう……。





「あ」

「う」


 翌日、紗也華とバッタリ遭遇したが、お互い気まずい感じになっていた。


 ──ダダダダダ!


 エンカウント直後に逃げ出す雑魚モンスターの如く、紗也華はあっという間に居なくなった。うん、終わったな……。




 そんなこんなで意気消沈したまま上映会の日。

 俺は噴水の前でやっぴーさんを待っていた。待ち合わせよりかなり早く着いてしまったが、緊張を落ち着かせるには丁度良いだろう。


「あのー……ヌキジ──ゴホッ! ヌキマンさんですか?」

「ふえっ!?」


 心の準備が整わぬまま、声をかけられパニクる俺。そうだった。アカウント名『ヌキマン』だったわ俺……ハッズい!!


「は、はははい……! ヌキマンですはい!」

「やっぴーです。今日は宜しくお願いします」


 ドピンクのロングヘアに……なんかよく分からない服装。いかにも『ギャルですぅ~』と言った感じだが、今日は長ズボンだった。無念じゃ。


「じゃあ行きましょうか……!」

「はい」


 緊張も解れぬまま、俺は歩き出した。もうカチカチだ。

 映画館へ入ると、どこもかしこもカップルだらけ! まるで異世界! 別世界……!!


「な、何か買いましょうか……」

「あ、買ってきてありますよ~。勿論ヌキマンさんの分も~。誘ってくれたお礼です」

「えっ!?」


 全く予想だにしていない事態!

 ギャルなのにそんな気遣いが出来るなんて……!

ギャルなのに……!!


「あ、ありがとうございます……!!」

「い~え~♪」




 席へ座ると、やっぴーさんとの距離がグッと近付いた。隣同士、えも言えぬ距離感でやっぴーさんの顔がハッキリと分かる。付けまつげが凄い。

 先行上映会なのでまだ会場は明るく、とても恥ずかしい。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 ぎこちない手でお菓子と……異国の飲み物を受け取る。名も姿も存ぜぬ柔らかそうなクリーミーな飲み物だ。



 ──それでは定刻となりましたので、本日のスペシャルイベントとなります──


 前方へ司会者の女性が現れ、挨拶が始まった。


「あの人、テレビのアナウンサーの……」

「そ、そうなんですか?」


 普段テレビなんぞ見やしないから、誰だと言われてもピンと来ない。


「それでは監督の方から──」


 眼鏡のちょび髭監督がマイクを握ると、拍手が送られた。


「前作も大好きだったからマジ感激……!」

「そ、そうなんですか」


 やっぴーさんは手で顔を覆って今にも泣き出しそうな顔をしている。まあ、喜んで貰えて何よりだ。


「それでは主演の坂本当摩さんと、林田蹴奈さんからそれぞれ御挨拶を──」


 顔の良い主演男優と女優の二人にライトが当たると、会場から黄色い歓声が沸き上がった。


「マジ尊い……!!」


 やっぴーさんは既に号泣していた。

 俺はよく分からないので拍手を合わせるので精一杯だ。この分だと映画も素直に楽しめるか怪しくなってきたぞ……。



「それでは皆様、これから始まる二人の物語を心ゆくまでお楽しみ下さいませ」


 会場が暗くなると、映画は始まった。

 やっぴーさんの顔もおぼろげにしか見えなくなり、恥ずかしさが薄れてゆく。皆がスクリーンに釘付けになる。俺は飲み物を一口飲んで、ため息を漏らした。

 うーん、クリーミー…………。





「う゛っ……う゛う゛……っ!!」

「ちょっ、ヌキマンさんいつまで泣いてるんですか」

「うう、だっで……ぅぅ」

「ほらほら、スタッフさんの邪魔になりますから……」

「まさか最後に──」

「ヌキマンさん外で結末言っちゃダメですってば!」


 まるで介護、まるで護送の様に、近くの飲食店へと連れられる俺。マジで映画は感動したし、来て良かった……!!


「……そう言えばヌキマンさんって、最初誰と来る予定だったんですか?」

「…………」

「あ、すみません。聞いたら失礼ですよね……」

「いえ、外で『ヌキマンさん』は少し恥ずかしいなと」

「そこ!? 今更!?」

「ハハ、ですよね」


 俺達はオシャレなハンバーガーとドリンクとポテトを頼んだ。


「Lサイズを一つとかにして、皆で食べるの好きなんですよ」

「分かる分かる」

「いつもクラスの奴等とこうやって……」


 と、不意に紗也華の顔が浮かんだ。

 アイツ、俺とポテトをシェアした時にやたらめったら食いやがった事があったな。


「……ヌキマンさん」

「はい」

「本当は……その幼馴染みさんと、来たかったんですよね?」

「……フラれたから……仕方ないんです」

「嫌だって言われたんですか?」

「えっ……」


 紗也華とのやり取りを思い出してみる。

 そう言えばモブ女の乱入でうやむやになってしまったが、あの時もしモブ女達が来なければ…………。


「もしかしたら、何か誤解があったのかもしれませんね」

「……もう一度誘ってみます。ありがとうございます」

「お力になれたならなによりです」


 やっぴーさんは見た目がギャルでも、中はとても優しい素敵な人だった。





 月曜日、登校中に気持ちを落ち着かせるため、自販機で何か買おうと思い眺めていると、横から誰かが小銭を入れ始めた。紗也華だった。


「ん。私のおごり」

「ああ……ありがとう」


 クリーミーラテを手渡され、封を開ける。一口飲むと映画館の味がした。


「クリーミーラテだったのか……」

「ん? なあに?」


 紗也華と二人、自然と並ぶようにして歩き出す。会話は無く、気まずい雰囲気が流れている。


「……映画、どうだったの?」

「えっ!?」


 突然、紗也華が話題を振ってきた。よりによって映画の話題を、だ。

 返事に困り、しどろもどろする俺。


「いや、その……まあ」

「何よ、どうせ友達の誰かと行って寝てたんでしょ?」

「いやいやいや! それがスッゲー良い映画でさ! 主演の坂本当摩さんってさ、最初チャラ男の顔だけかと思ったんだけど、随所にヒロインを気遣う仕草がハッキリと出ててさ! これがイケメンか! ってさ!」

「へ、へぇ……」

「二人の出会いも必然的で、まさかラストに当摩さんが──」

「ちょっ!! だから外でネタバレはダメですってヌキマンさん……!!」


 ガッポリと紗也華に口を押さえられた。どうやらヒートアップし過ぎたようだ。反省……。





















 ……?










「いま…………ヌキマンさん、って……」

「──!!!!」



 紗也華が突然走り出した。それはそれはまるで警察官から逃げる犯人の様に必死だった。



「……やっぴーさん?」

「知らないわよ!!!!」


 紗也華は振り返って叫んだ。耳まで真っ赤で、とても恥ずかしそうだった。



「……やっぴーさん?」

「バカーーーーッッ!!!!」



 そのまま紗也華は走り去ってしまった。どうせ学校で会うのに……。

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― 新着の感想 ―
[一言] いやいやいや…まずはあんな罵詈雑言を浴びせた事を土下座して謝れよ…印象最悪だろうに。
[良い点] ま、まぶしいぃぃぃ! Σ(ノд<) [一言] 私もはぐれて型崩れした生物みたいによく逃げますよ。 すぐ捕まるけどね! ・゜・(つД`)・゜・ 「お前、そこ座れ」 「ふふふ(微笑)、切腹で…
[良い点] いやぁ良いですねえ [気になる点] 登場人物だけ考えて、文章は間咲さんに外注出してませんか? [一言] 女性って化粧でそこまで化けるモノですか?
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