カリーナ視点
ちょっとだけ怖いと思う箇所があるかもしれませんので、お気を付けください。
カリーナは傷のせいであちらこちらに行く意識をまとめるように考え始める。
マギーは何も知らないし、何も分かっていないだろうと。
所謂一般の生活前部において。
そしてマギー自身が自身の美しさも。
カリーナが彼女を初めて目にしたときは息をのんだ。
緑の黒髪にまっすぐなエメラルドの瞳、瞳の間からはすっきりとした鼻筋にすこしだけツンと上を向いた鼻。
その下にはサンゴ色の唇。
身体は成熟したての果実のような瑞々しさと滑らかな曲線。
カリーナ自身もよく綺麗だといわれ少しばかりは自信があった、特に冒険者の中ではという注釈はつくが。
神殿に住む人間は女性ばかり。
力仕事のための就労奴隷ですら元男性だ。
知った時にずいぶん徹底しているなぁと、驚きを突き抜けて納得した。
なお私は奴隷のため「住ん」でいるとはいえない。
私が分かった範囲(マギーが教えてくれたものも含めて)では、数名の聖女を中心に、聖女候補、聖女見習い、神殿を運営する教師と呼ばれる人たちがいるらしい。
見習いをはじめ「聖女」と付けば、侍女もいるようだ。
聖女として才能を見いだせない場合は見習いから侍女になる女性もいるらしい。
ーー侍女の中には私と同様の就労奴隷もいるようだったーー
私が見た限りでは(数人だが)、住んでいる女性は間違いなく美しくい。
その中でもとりわけ群を抜いた美貌を持つ女性がマギーだった。
私に比べ、彼女は世俗から離れた生活をしていたのだ。
金銭をはじめとする生活にかかわる内容は、道々教えようと思っていた。
カリーナは思い出す、
『思っていたよりマギーを推す声がとても強くなった。
そうなると、今まで以上に会いづらくなる』
あの新月の日は風の強い日だった。
私は時折吹く強い風のせいで髪が視界を邪魔し始める。
髪はまとめていたというのに。
私は神殿の内外を探しマギーと合流できた。
「今日行かなければ次はいつになるかわからないから」
「カリーナ様、私何も持っていないわ」
「あなたは着の身着のままで問題ない。
最低限なら私が持っているから。とにかくついてきて」
促すカリーナにマギーは、生成りの綿を前で合わせ腰のあたりで革紐で結んだだけのいつも通りの簡素な姿だった。
『格好だけなら、ここで奴隷の私とほとんど変わらないけど』
私たちはシルヴァのお陰で手に入れた、小さなバッグを腰に付け、
神殿から出られる唯一の扉に物陰から少しずつ向かう。
「見張りはいない様子。きっと島の船着き場にいるんでしょう」
扉を抜ければ桟橋までの石畳がある。
石畳から脇に逸れれば、這えば隠れることは出来るほどの背丈の草が生えていた。
二人で這うようにしてみれば思った通りの人だかり。
教師たちが今夜のお客だと思われる、高位貴族を恭しく出迎えているのだろう。
マギーは「彼らの乗って来た大きな船を乗っ取るの? 」と小声で尋ねてきた。
「いいえ、近くに筏を隠しておいてるの。ま、作りかけだから動くかわかんないけど」
「カリーナ様、あなたって思っていたより適当!? 」
「今、そこじゃない」
船着き場に誰も姿は見えない。
ただ新月のため光が少なくて不安だった私は、マギーに念のた質問してみた。
「夜目は利く? 」
「少しは」
「誰かいる?
いないなら船着き場のほうに向かいましょう」
私たちは風をまとう草の中、少しずつほふく前進で向かった。
船着き場のあたりは唯一、海に面している。
私がこの島の周りを調査した時、本当に驚いたものだ。
出入口以外が高い岩で囲まれているから。
「マギー様がいない! 」
「探せ」「船着き場に行け!」
「礼拝堂だ」「地下にも人を向かわせろ」
神殿の方角から口々に叫ぶ大声が聞こえ始める。
マギーを探している人々が持っていると思われる、
灯された松明が数個こちらに向かってきているようだ。
「あそこなら飛び込めるわ。カリーナ様はどう? 」
私たちは一緒に岩の切れ目から海に飛び込んだ。
火のついた矢がいくつもが届く。
私がマギーを庇おうとすれば、彼女も同様に私を庇おうとする。
強い風の中、力を使い果たした私たちは流されていった。