5話 夢見る蝶
夕日に照らされる隻腕の機械。
コイツが来た世界が同じなら、私の帰る家は残っているのだろうか。
そう考えながら私は機械に触れる。
「あやめ」
「うん、どうしたの?」
「あやめはきっと帰れるよ」
「ありがとう。大丈夫だよ」
メリアーの頭そっと撫でる。
「これはもしもの話しだが、帰れなかったらこの家に住めばいい。この村の人達は見ず知らずの私達を向かい入れてくれた。きっとお前も歓迎してくれるだろう」
プロメは優しく微笑みそう言う。
「はい!」
感激のあまりにプロメに抱き着く。
「えい!」
メアリーも抱き着く。
「いきなり抱き着くな!ほら中に入るぞ」
数時間後
食事を終えた後、メアリーが風呂に行き、あやめとプロメの二人だけになると
「ちょっとこの本を読んでみろ」
そう言ってプロメは一冊の年代物の本を渡してくる。
「随分古そうな本ですね?え~とだいたいだれでも分かるE.F取り扱い説明書。うん…日本語!」
本は日本語で書かれていた。
「これをどこで」
「昔の友人から貰ったんだ。何でも別世界の本の写しだとか」
懐かしそうに話す。
「この文字を使っていた国や部族の記録は一切存在しない、仮に古代の物だとしても原本の製法とか材質で再現出来ない。
だからこれは別世界人の落し物だって言っていたな」
いわゆる漂流物か。
「当時の私は傭兵をやっていたから色々な場所を回っていたから、ついでにこの本を読める奴を探してくれと頼まれてな」
「それで見つかったんですか?」
これを読める人が居るならその人は多分、私と同じ日本人に違いない。
「いや、お前が初めてだ」
「そうですか、でもその友達には良い報告ができますね」
私と同じ境遇の人に合って何か聞けると思ったけど残念だ。
「それは…考えておいた方が良いだろう」
予想外の返答が来る。
「えっどうしてですか?せっかく友達に」
「考えてみろ、ただでさえ黒髪で別世界から来たお前が、この本を読める事を言ったら面倒なことになるぞ。
噂その原本は紛失したらしく、これは当時研究者が魔具で書き写した本の一部で、全て盗難にあったそうだ」
なにか物騒だな。
「これは露店で偶然手に入れたそうだ」
「でもどうしてこの本を?」
プロメはあやめから本を取ると、あるページを開き渡す。
「これは!」
そのページにはあのロボットの絵が載っていた。
「ああそうだ、あのEFの絵が描いてあるからこの本を見せた」
本は所々虫食いで損傷しページが欠落している。
「…(携帯モード、操作方法、戦闘で役に立つ機能、モニターの使い方)うぅん!?」
最後の方に便利機能として動画再生機能やネット、ゲームなどの娯楽目的の物が付いている。
「どうかしたか、何か不味い事でも書いてあったか?」
「いえ、ただあのEF作った人はどんな顔か見たくなりました」
あやめが本とにらめっこしていると、メアリーが風呂から戻って来る。
「お風呂上がったよ」
「そうか、あやめ先に入るか?」
「そうさせてもらいます」
昨日はシャワーだけだったが今日はお湯に浸かろう。
「あ〜それにして」
ここの浴室は何故か木製の日本風で一切異世界感が無い。
昨日は泥と血だけ落とすだけで浴槽に浸からなかったので、そこまで気にしなかった。
「そういえば私の服どうなっただろう」
服の事を考えていると脱衣所からプロメが話しかけてくる。
「着替用意したぞ。あとすまないがお前の服は処分した。血塗れのボロ雑巾だったが盗賊にでも出会したのか?」
「岩でぱっくりやっただけです」
あの時は夢だと思っていたから痛みに疑問を持たなかったが、なんだったんだ?
「あの血の量は重傷の兵士並みだがよく生きてたな」
「ポーション飲んだらいけました」
「いや、普通あの量はポーション飲んだくらいじゃ助からん。
でも生きているならそれで良いよ」
そう言い残し出て行く。
「・・・あぁ月が赤いな」
窓から赤い月が観える。
「そろそろ上がるか」
体を拭いて服を着て、リビングに向かう。
「プロメさん上がりました」
「分かった。私はお下がりだが丁度良いみたいだな」
用意された服は丁度良く体に合う。
「さて、私も入るか。洗面台に新しい歯ブラシがあるから使いな」
プロメが風呂へ向かった後、あやめは取説を引き続き調べようとすると、本を読んでいたメアリーが興味津々に話し掛けてくる。
「なぁにその本?」
「あの大きいEFの使い方が載っている本だよ」
「へぇ、この文字読めるんだ。なんて書いてあるの?」
「えーとね」
私は取説を読み始めさっき気になっていた携帯モードのページを開く、そのページにはこう書かれていた。携帯モードとはEFがデカいから場所を取って邪魔、そんな時はこの携帯モードがおすすめ。このモードにするとEFが腕輪に収納されるぞ。
使い方、付属の腕輪型端末に付いているパネルを操作し、メニューを開いて収納アイコンをタッチすると収納出来ます。
(アレが腕輪に入るのか、流石未来の技術)
巨大な物を小さくしてポケットに収納する技術は22世紀には開発されそうだ。
それはそれてして
「どうしたの?」
「今日は色々あって疲れちゃった。先に寝させてもらうよ」
「分かった、おやすみ」
本をテーブルに置き歯を磨きに行く。
歯を磨いていると浴室からプロメさんの鼻歌が聞こえる。どうやらご機嫌が良いらしい。
「あやめか、じゃあもう寝るのか。私のベッドを使え、私はソファーで寝る」
「えっ良いんですか」
「元々あのベッドよりソファーで寝る事が多いから気にするな」
歯を磨き終え、寝室に向かう。
私は靴を脱いでベッドに倒れこむ。今日は大変だった、夢だと思っていたら現実で、帰ろうとするとあのロボットに乗って、変なのと戦うことになるし、今日は散々な一日だった。異世界に来たけどもう帰りたい。
「でも、メリー君達に出会えたことはよかったな~」
窓から夜空を見上げる。
「東京じゃこんなに星は見れないだろうな、いやそもそも此処は異世界か」
雲一つ無い夜空、無数の星が輝く、なぜ私がこの世界に来たのか分からない。
「ほんとに帰れるのかな」
そんな心配事をしていると下からメアリーが上がって来る。
「あれまだ起きてたの?」
「今、寝るとこ」
「そっか、おやすみ」
そう言ってメアリーは自分のベットで横になる。
「おやすみ」
私は考える事をやめて、目をつぶる。
しばらく目を閉じていても眠くならない、帰る手段が本当に見つかるのか不安だ。
ふと、メアリーの寝ているベッドの方を見る。寝息が聞こえる、ぐっすり寝ているようだ。突然、下からなにか物音が聞こえる。
私はそれが妙に気になり静かにベッドから降りて足元の明かりを頼りに階段をゆっくりと下る。リビングのソファーにプロメは寝ておらず、何故か玄関の扉が少し開いている。
鍵を閉めようと扉に向かうと扉の隙間から何かの光が見える。何の光か気になり開くと強烈な光で視界が一瞬白くなり前が見えなくなる。
目を開くとそこは、外ではなくコンクリートの壁で囲まれている部屋だった。思わず振り返るがこの部屋に入って来た扉が無い。
部屋の中を見渡すと理科室にありそうなガラスの瓶や飼育ケージが置いてある、どうやらここは研究室のようだ。部屋を見渡すと奥の棚から小さな光が見える。私は恐る恐る近づきその光を掴む、光の正体はとても鮮やかに光る蝶だった。その光に魅入られた様に見ていると蝶は突然溶けだした。
E.F取り扱い説明書
謎のロボットの取説
謎のロボット
森で見つけた右腕の無い謎のロボット