61話 法則の一”存在の確定“
「ほぇなんか凄いことになってますね」
叩き切った扉の先の通路は四方八方の壁を突き破って生えた、白い植物の根に侵食されもはや壁の色すら判らない状態になっていた。
「異常成長した怪植物に襲われるタイプのホラー映画に出てくるやつじゃん」
「この根っこ何です?」
「こいつはグラフトフラワー。さっき話したダンジョン内に別の空間が発生した時に元々ある空間に接合した時に発生する接合跡だ」
グラフトってさっき言ってた空間を大きくする現象か。
接ぎ木が何なのか分からないけど、接ぎ木って言うよりは寄生されてるみたい。
「さてダンジョンに関する話として、昔ある貴族の嫡男が失踪した。誘拐されたのか、単なる家出だったのか本人が見つかるまで分からなかった。だが失踪から50年後、その少年はあっさり城の裏庭園で見つかった。失踪した日と同じ姿で」
コニーは根っこで凸凹した道をスラスラ進みながらそんな話をしてきた。
それに対して私たちは根っこで転ばないように、ぎこちなく必死について行く。
「同じってことはエルフ?」
「いんや、ただの獣人だ。当時6歳の少年が50年経てば必ず爺さんだが、そいつの服装や記憶は当日の昼飯前に消えた時と全く時間が経っていなかった。つまり時が止まっていたのさ」
過去から未来へ来てしまったタイムトラベラー、と言うよりはエジプトのツタンカーメンに近いかな。
「信じられっか、瞬きしたら一瞬で50年だぞ。俺なら夢を観ていると疑うね。あ、この話がダンジョンに関係するかって思ってんな。話の肝は見つかった場所だ」
「裏庭園にダンジョンでもあって、その中に居たのか?」
「そうだ探し物は直ぐ近くにあったわけだ。
と言っても入り口は子供が入れる程度の木の根の隙間と、きたもんだ。
そりゃ大人にゃ見つけらりゃしねぇさ」
灯台下暗しって言葉にするには悲し過ぎる。でも見つからないよりは良いのかな? いやでも半世紀は流石に辛いな。
「でもよく見つかりましたね」
「ああ偶々遊びに来ていたおれが、城を探検してたら偶然見つけたって訳さ」
「見つけたのコニーかよ。いやちょっと待て、コニーも入ったならどうして出てこられたんだ」
確かにそのダンジョンに入ったら出れなくなるならどうして、コニーさんは出られたんだろうか?
「特別なことはしてねぇよ。ただおれは中に入ってアイツを観測した。その観測こそがダンジョンの謎を深める要因だったてわけさ」
「ダンジョンは一人で潜るなって聞いたことあるだろ?」
それは一番最初の授業で教えられたルール。ダンジョンは必ず2人以上で行動すること。
「一般的にゃあ、帰還率を上げる目的と言われてるがそうじゃねぇ。ダンジョンから帰る条件に必要なだけさ」
「出入口でも塞がれるですか?」
「いんや何も何にも起きねぇ」
コニーは唐突に立ち止まってこちらに向くと、ウエストのホルダーからリボルバーをゆっくり取り出す。
「こいつは回転式拳銃。この筒に弾丸を詰めて引き金を引けば5発まで弾が発射される」
シリンダーから既に装填された5発の弾から4発抜き取り、シリンダーを回転させながら装填する。
「これで5分の1で頭がパァよ」
コニーはまるで自殺するかのように銃を自身の頭に着け引き金を引いた。だが弾は発射されず空撃ちとなり撃鉄の音だけが鳴った。しかしコニーはシリンダーを回さずに3回続けて引き金を引いた。
「すごい……全部外れた。えっちょっ!?」
コニーは銃をあやめに向けて5回目の引き金を引いた。だが撃鉄が落ちる前にコラーンが神谷の前に立って身を挺して庇った。
「・・・?」
しかし弾は当たるどころか発射されることはなく、発射されるはずだった弾丸は不発に終わった。
「悪ぃな、悪ふざけだ」
「冗談きついですよ」
E.F着ているから当たったところで怪我はしないけど、それでも銃を向けられたら心臓に悪い。
「何で身構えた? 一発も弾が入ってねぇのに」
コニーはシリンダーを開いて弾が1発も装填されていないことを見せた。
「いやだってさっき一発、残してたから」
「ああそうだ、そう見せた後に抜いた。だからおれとおまえさんが観ていた事は異なる。だが結果は同じだ」
最初にコニーさんは銃に弾が込められていることを教え、次に引き金を引き続け、最後にその弾が何時発射されることを示した。それを私達は見た。
けれどコニーさんは弾を込める前提が初めから無かった。だから観ていたものが違う。でも弾が発射されないという結果は同じだった。
そして今度は弾を4発装填し、ポーチの中にしまう。
「この中にはおれたちが入っている。それを観測できるのはおれたちだけだ。なら他者から見たらどうなる。結果は結論の中を確認するまでおれたちは存在しているし、存在していない。
それ即ちダンジョン法則の一“存在の確定”だ」




