57話 海溝
「あれ?・・・此処は…」
あやめは気が付くと見知らぬ部屋に居た。
おそらく子供部屋で部屋には巨大な縫いぐるみが山のように積まれていた。
じゃあなんで私がこんな所に居るのか考えてみる。
1つ目はまた夢の中だと言うこと、2つ目は誘拐され監禁されている、3つ目はあの世界の出来事が夢で、こちらが現実だった。
最後に憶えている事を鮮明に思い返すと直前までプロメさんと戦っていた筈なので1と2はない。
もし3つ目だったら突然景色が変わっても不思議じゃない、夢なら目覚めるのは一瞬だからだ。
「あぁぁぁわけわかんない!」
難しい事を考えると頭が痛くなる、もう夢と現実の境界が曖昧で判断が出来ない。
本当こう簡単に判別できる方法が欲しい!
「はぁ…はぁ…パニパニパニック…よ、よし落ち着いてきた気がする」
適当な事を叫んだらなんだか落ち着いてきた、取り敢えず混乱したらアホな行動をすると冷めるからこの手に限る。
よし冷静を取り戻したところで状況を整理する。
服装はいつもの白衣と違い、部屋の雰囲気に合わせたパジャマ姿で指にはマニュキアと随分可愛い、だがデバイスを着けていない。
視界は縫いぐるみで埋め尽くされ床や壁がどんな色をしているのか分からないが、天井を遮る物は無いので絵本の様な空が描かれているのが見える。
あと他に何かありそうだけど今はこの部屋から早く脱出しよう、出口は在るはずなんだ多分。
・・・
「うわ…マジかぁ」
部屋全体を縫いぐるみの上から見回そうと思って頂上を目指したが、見えてきた絶景は予想しないものだった。
何故なら先程まで縫いぐるみが壁を遮り見えないと勘違いしていたが、そうじゃないと判った。
壁は確かに見えた、ただし縫いぐるみで埋め尽くされた地平線と山々の先に。
「・・・」
こんな時に常人だったらどんなことを反応のだろうか、まぁ大半の人は「あっ夢か」みたいな反応をするだろう。
「あ~びっくりした、そっか~夢か~」
いつものリアルな夢のパターンが違いすぎてむしろ現実なのかな~と勘違いしてたけど良かった、寝た記憶が無いけど。
まぁなんにしても夢だってわかって安心した。
「そうだ!ハンバーガー出ろ~」
あやめがそう唱えるとハンバーガーが出現する。
「おお!でたでた、ピザ、ポテト、ラーメン」
次々と食べたい物を出し、夢だが数ヵ月ぶりのハンバーガーにかぶり付つく。
「・・・」
ハンバーガーを一口食べると次の料理に手を付けるがどれも少し食べただけで終わる。
「・・・味がしない」
出した料理を消して、一瞬高かったテンションがガクッと下がる。
「つまんな~」
いつもの悪夢と違ってこっちは何でもできると思ったが料理は味がしない、ゲームとか音楽も今は気分じゃないから早く目覚めて欲しい。
「ポテーチ塩…」
どうせ味が無いのについ出してしまった。
「あれ?味がある…コンソメ、ピザ味」
なぜか料理は味が無いのにポテーチ(塩)だけ味を感じることができた。
「どうでも良いや」
腹は満たされないが無限に出てくるチップを食べながらこの後どうするか考えていると登ってきた麓と反対の場所に光る何かを見つけた。
彼処まで下るには骨が折れそうなのでドコニデモ行けるドアを出そうとすると、やたら豪華な扉が出現する。
大きさは2mくらい有りそうで銀色の表面に様々な装飾品で豪華に着飾っているにも関わらず宝石自体の主張が穏やかであり、何処か気品を感じる一品と言ったところだ。
「想像してたのと違う…もっとこうピンク色の…わっ!?」
扉を眺めているとドアノブに触れてもいないのに勝手に回り始めた。
するとあやめはガムテープを出してぐるぐる巻きにして消そうとする。
「あーやっぱ消えない」
直感を信じて咄嗟に施錠をしたけど間違ってなかった、こんな美的センス高そうな物を私が思い付くわけがない。
この夢がいつものと同じタイプならなにもしないで居ると襲ってくるやつだろう。
「て、いうことは此処から脱出する出口はあれかな」
光るあれを調べようと双眼鏡を出そうとしたが出ない、おそらくこれが出たからサービスタイムが終わったのだろう。
「この後の展開的に扉から出てくる何かと鬼ごっこしそうだから、のんびり出来そうにないか」
どうやって彼処まで行けばいいか、普通に下りたら間に合いそうにないからジャンプして一気に行く…ただ死ぬかもしれないけど。
こうソリとか有ったら滑って行けるかもしれないけど、周囲には縫いぐるみと扉しかないし…あっ扉。
「これはいける…かなぁ?いや多分できる」
あれと扉が直線に重なる位置に移動し、足元の縫いぐるみをトランポリンの様に使い、扉に勢いを着けた体当たりで扉を倒しソリの代わりに彼処まで滑って行く。
しかし実行して扉を倒す所までは成功したが、扉が縫いぐるみへ落ちると滑らずに投石機みたいに跳ばされる。
「あぁぁぁ!やっぱダメだぁぁ!」
あらぬ方向へ飛んで行き別の山に衝突して坂を転げ落ちた。
「死ぬかと思った、あっ!」
顔を上げると目の前にあれがあった、どうやら成功?したらしい。
「で、これなんだろう?」
私よりも大きい長方形の透明な板でガラスの様に見えるけど触った感触は液体で、指が触れた場所から水の波紋みたいなものが全体に広がる。
押せば奥まで入って行く、どうやら向こうへ行けそう。
「ゴールっぽいけど罠だったら不味いし、でもあとヒントっぽいのあの扉くらいだし、そういえば何処に…あった」
なんか遠くの縫いぐるみに刺さっていた。
「出てこないから合ってるみたいだけど…うん?」
・・・なんか視線を感じる。
視線を戻すと水面には誰かが写っていた。
違う、誰かではなく私だ、誰かの姿をした私。
周りの景色は写っていないのに私だけが鏡の様に写されている、何かがおかしい。
慌てて手を引き抜こうとすると腕を何かに掴まれ咄嗟に目を瞑る。
(あー来た、来ちゃったよ、今日はあれ以外大人しめだと思ったのに)
覚悟を決めゆっくり目を開くと水面に写った向こうの私が私の腕を掴んでいた。
そして掴んでいな方の手が私の顔に向かって来た。
指が水面から出てくると指が異形へ変わってゆき、黒い獣の様な腕へ変貌する。
「あっ…あ…」
バァーン
それと同時にあの扉から何かが出てこようと扉を何度も叩くのが聞こえてくる。
「はは…はは」
なんだか恐怖と恐怖が同時に襲ってくると理解が追い付かなくて逆に笑えてくる。
全身が出てくる頃にはもう姿が完全に別のものへ変わってしまう。
全身毛むくじゃらで顔は大量の目玉でびっしり覆われ、頭から生えた舌の様なものが私の周囲を囲み視界を奪う、この間も扉を叩く音は止まらない。
だが何もせずただこちらじっと覗いてくる。この行動になんの意味があるか分からないがこっちにとって恐怖でしかない。
これから逃げれたとしてもあの扉の奴に追われる、そうだ彼奴は今もこっちに来ようと扉を…あれ?そういえばあの音が聞こえない…諦めたのかな。
すると突然、獣が飛んで行ってしまった。
飛んだと言うよりは吹っ飛ばされたに見えたがなんだか分からない。
ふとあの扉を見ると既に開いていた。
察するに扉から出てきた何かがあれをぶっ飛ばしたらしい。
そしてやった張本人を見つけようとする頃には投げ飛ばされていた。
「あぁぁぁ!」
扉の向こうまで飛ばされ、気がつくと洞窟に居た。




