30話 珈琲
あの勢いで街中を探し回ったけど結局見つからなかった。なんちゃってファンタジーの世界なんだからコンビニの一つもあっても良いはずだけど、流石に場違いなのか、どうせ来るならポテーチとコーラがある世界が良かった。
「そんな泣かなくても…ところでそれはどんな食べ物なの?」
「ポテーチの起源はとあるホテルシェフが客に提供したポテトフライが分厚いといちゃもんを付けられて、嫌がらせに薄く切って油で揚げたものを出したらしい、そしたら好評でそれが段々世界中で広まったんだ。国によって味や食感、中にはトウモロコシの粉を使ったものもあるんだ。私はシンプルなうすしお味が好きだけど、映画観ながら食べるチーズナチョスも好き。そしてコーラはなんて説明すればいいか分からないけど、ともかく喉が乾いた時に飲むと凄く美味しい。暑い日に外で飲むコーラは砂漠を1周間さ迷って飲む水以上のものかな!」
正直こんなに食べ物のことを人に話したことはないけど、ここまで来ると禁断症状が出ているかもしれない。
「ところどころ分かった、つまりコレのこと?」
「こっこれは!」
メアリーがいつの間にか持っていたチラシを貰うと新しくオープンしたお菓子屋さんが載っていた。そして目玉商品としてポテートチップス新発売と書かれていた。
それを理解した瞬間、あやめは理性より先に本能が身体を動かした。全力疾走でその店まで走る。それは今までのあやめの人生で最も速く、欲望に忠実だったという。
店に着くと即座に店内を把握し、目的の商品の棚までの最短距離を導き他のお客に迷惑が掛からないよう早歩きで進む。
(見つけた)
棚に残っている最後のポテーチの袋を掴み取り掲げる。
「やった…私/俺はやったんだー!」
思わず涙を流してしまう、たかがポテーチ一つにここまで必死になるか、それは今まで身近にあったものを失って初めてその有難さを理解できたからだ。
この世界でようやく再会できた。例えるならば前世の親友と再会して現世でも親友になるくらいの衝撃なんだ…多分。
「あとはレジに・・・俺?」
今誰かとセリフが被った気がしたが気のせいだろう。構わずレジに行こうとすると袋が誰かに引っ張られる。振り返ると私と同じ年くらいの男の子が袋を掴んでいた。
「・・・」
「・・・」
沈黙の時が流れる。そして何故か私はこの青年に対して尋常ではない嫌悪感を懐いていること感じた。
「…お互い譲る気は無いようだな」
「残念ながら無いですね」
両者とも袋を放す気はなく、店内に張り詰めた空気が流れる。
「まず店を出てからにしないか、この間々ここに居ると他の客と店員に迷惑が掛かり最悪出禁されるかもしれない。あと他の人の視線が辛い」
その提案に乗り、同時に袋から手を離し店を出る。
「それでどうやって決めます」
「こんなのはどうだ」
二人がポテーチで揉めている頃、神谷達はあやめを追いかけて店の近くまで来ていた。
「いや〜人間ってあんなに速く走れんだ」
「神谷は出来ないの?」
「普通の人間は出来ないはずだけど…こっちだとあれは普通なのか?」
「どうなんだろ、僕の知り合いに水の上を走れるくらいの人たくさん居るから普通が分かんない」
それを聞いて益々この世界における人間の基準が分からなくなった。まあそんな些細なことは今は放っておこう。それよりもあやめちゃんはポテーチを買えただろうか、外から店内の様子は見えるけど混んでいて入る気になれない。
「中に入るか?」
「いいや、人混み苦手だし…それにしても遅いね」
「あー目的の物で他の取り合ってるようだな」
あやめは他の客とポテーチを掴んだ間々動かず、それを周囲の客が奇妙な目で観ていた。
しばらく掛かりそうだし喫茶店とかで時間つぶすか。
「ここら辺って喫茶店ある?」
「知り合いのお店あるけど、時間かかりそうだし行く?」
「行く」
メリーに付いて行くと一軒の趣きがある喫茶店にやって来た。店の扉を開くと、中からコーヒーの芳ばしい香りが漂ってくる。
そして迷わずメリーはカウンターの席を選ぶ、どうやらここには結構来ているみたいだ。
「マスタ、いつもの」
この店の店主が手際よく苺パフェを作り、メアリーの前に出す。
「お客様もご注文は決まっていますか?」
「あーじゃあ、このブレンド珈琲で」
メニューから適当に選ぶ。
「ブレンド珈琲でございます」
珈琲を受け取る。それにしてもこのマスター見た目が猪なのだが渋いな。
「ここよく来るのか?」
「そうだね、ちょくちょく来るよ」
パフェを食らうその容姿からしたら想像出来ないがなんとなく似合っている気がした。
それにしても店内を観ていると結構面白い、静かで大人の雰囲気と聴いたことないけど良い感じの曲が流れていて、不思議な気分になりそうだ。
その中で窓側の席に居る少女に自然と目を引いた。




