13話 逃走と石
爆発は棚を粉砕し、積んであった樽を吹き飛ばすと雪崩を起こし、エルフとサキュバスのみが巻き込まれた。
飛んで来た樽は幸い、あやめ達には届かなかったが、衝撃で樽はいくつか破れてしまい中身の黒い粉が漏れる、胡椒だろうか。
「・・・よし大体計画通り、あとはあの人をあれ?いない」
先ほどまで居た男が消えている。
「逃げたのかな。よし、今はこの事を警察に報せよう。行くよあやめちゃん」
「・・・」
何故か返事がないので振り返ると彼女は辛そうに膝を着いていた。
「大丈夫!?」
「はぁ…はぁ…もち」
反応は示すが息が荒い。原因は不明だが明らかに具合が悪い。歩けそうにないので背中に担いで此処を離れようとするが、背後から樽が飛んでくる。
「痛っいな〜もう、なんなの」
樽の山からさっきのサキュバスが這い上がってきた。神谷は息を殺し身を隠す。
「いきなり崩れるなんて、なんか爆発もしたような気がするけど。まあ良いわ、それよりも…あれ?」
辺りを見渡すが先程の彼が居なくなっている。
「何処に行ったの?いや、まだ近くに隠れているはず」
コートを脱ぐとその下は縦線の入った黒いライダースーツの様な物を着ていた。
尻尾を頭より上に延ばすと何かを探すように揺れ始める。尻尾がある方向を指す、その周りの樽を退かすと仲間のエルフを発見する。どうやらレーダーの様な物らしい。
「さてとお次は」
エルフを担ぐとまた何かを探し始める。尻尾がこちらの方を向くと徐々にこちらに近付いてくる。
俺は音を立てないように気を付け急いで離れる。
神谷はあれから迷路の様な道を進み表通りを目指していた。
あやめはまだ歩けそうにないがさっきより回復していたが、神谷は追い込まれていた。
「クソッあいつ俺に追い付けるくせに遊んでやがる。あいつ絶体ドSだろ」
神谷はあやめを担いでいる状態だが全力で走っている。それに対しサキュバスは姿を見せず、鼻歌を歌いながらずっと同じ距離を保ち向かって来る。
姿が見えないのにそれが分かるのか、足音がずっと同じ大きさの為だ。
「やっと見えた」
もう少しで表通りに辿り着こうとした瞬間、何者かが神谷の腕を掴み建物に引きずり込む。
「クソッ離れろ」
「おいおい落ち着けって」
神谷はあやめが握っていた銃を男に向け、男はそれを宥める。
「アンタはさっきの」
男の正体は先程取引をしていた男だった。
「まずはお互い自己紹介しようぜ。俺はアベルって言うんだ」
「神谷だ。それで俺達に何のようだ」
「別に危害は加えるつもりはねぇよ。寧ろ助けただけさ、外を覗いてみな」
窓の隙間から外を覗くと追いかけて来たあのサキュバスがこちらを探しているのが観える。尻尾で俺達を探している様だが見つかって居ないみたいだ。
だがそれよりも気になる事があった。
「エルフが居ない」
さっきまで担いでいたエルフがいつの間にか居なくなっていた。
もう少し見張っていると表通りからさっきのエルフがやって来た。
どうやら先回りされていたみたいだ。
「アイツらはどうした?」
「あら?そっちに行ったんじゃないの?」
「いや、こちらには来てない。ここら辺に隠れているのだろう」
不味い私達も居ることがバレてる。
ここに居てもいずれ見つかる。
「どうする?ここら辺一帯探す?」
「止めておこう。此処は目立つ」
そう言って何処かに去って行く。
「い〜や災難だったな坊主共」
あの二人が消えてようやく落ち着きを取り戻す。
「まぁ座れや」
アベルは二人の椅子を用意する。
「巻き込んで悪かったな。なんか飲むか」
「いやそれよりアンタ彼処で何やってたんだ!」
「あっ悪いな、珈琲しかねぇや」
「あざす…」
少し顔色が良くなったあやめは珈琲を受け取る。
「ちょっと仕事でこれの調査しててよ」
さっき取引していた袋をテーブルの上に置く。中には沢山の白銀色の石が入っていた。
これはビーマス鉱石と言って希少ではないが取り扱いが難しい為、まず一般人は手に入らないらしい。
「ふーん変わった形してんな」
神谷は一つ摘んで見ると鉱石は蝶の蛹みたいな形をしていた。そして石は瞬く間に溶け液状化する。
石がいきなり溶け出した事で慌てて手からこぼし、テーブルの上に落ちると一瞬で固まり元の形に戻る。
「こいつは高濃度の魔力が結晶化した魔石の一種で、これを使って魔法を使う事ができるだ」
アベルは一つ石を摘み、何処からか取り出した缶コーヒー位の大きさの真鍮の筒に入れ、銃の様な物に取り付ける。
そして銃を上に向けて引金を一瞬引くと銃口から勢い良く炎を噴射する。
「この鉱石一つで強力な魔法が使えるだがよ」
銃から筒を外す。
「あまりにも不安定かつ中毒性があるはずなのにこれを売って儲ける阿呆共がいんだよ」
「それってさっきの奴らか」
「ああそうだ、そこで何処で手に入れてるか知りたかったんだがな。情報では最初に半分を渡して、残りを別の場所で渡すのが手口だったそうだ」
どうやらあれは演技だったようだ。
「アンタもしかして潜入しようとしてたのか、じゃあ邪魔しなかった方が良かったのか?」
「本来ならそうなんだが、あの二人はどうやら模倣犯らしいから気にしなくて良いよ」
「そうなのか」
「まず投げた毒ナイフを舐めて倒れる奴ならとっくに捕まっている。それともう一人がサキュバスだったからな」
アベルはため息を吐く。
「エルフやサキュバスだと種族的に金に基本興味が無い奴がほとんどで、わざわざこんなをしない」
「じゃあ目的は」
目的を聞くと何か気まずそうな顔をする。
「ちょっとおじさんの口からは言えないかな」
「はぁ?」
「ところで嬢ちゃん達はなんで彼処に居たんだ」
「へぇ?そういえば何であんな所に居たんだっけ?」
自分がどうして彼処に居たのか思い返す。
「そうだ、私はこの人を連れ戻しに来たんだ」
あやめは急いでプロメに連絡し、神谷を連れてさっきの店に戻ろうとすると。
「これ持って行きな」
紫色の液体が入った瓶を貰う。
「あっどうも」
「マナポーションだよ。嬢ちゃんさっき銃で魔力の使い過ぎでやばかっただろ。もう無茶すんなよ。あともう来るなよ、ここら辺は危ないから」
そしてアベルと別れた後、店に着くまで神谷がまた何処かに行かないようにしっかり腕を掴んで連れて行く。途中あの二人に遭遇する事もなく無事に店に到着する。
「遅かったな、また吊るされてるじゃないかと思った。随分疲れた様な顔しているな、盗賊にでも会ったか?」
皮肉を言いつつ出迎えをするプロメ。
「まあ似たような感じです」
店の中に入る。
「も〜遅いよ。早く座って」
全員が揃ったところで、ようやく料理が運ばれて来た。
「あやめちゃん、この料理って」
「細かい事を考えたら終わりですよ」
神谷はあやめだけに聞こえるよう小声で話す。わざわざ小声で話すのは出された料理が全て見覚えがある物だったからだ。
唐揚げ、フライドポテト、卵焼きその他の料理もあやめ達の世界にも存在する普通の料理だった。
アベル 種族:人間? 性別♂ 身長180 髪色・黄色 年齢34
謎のおじさん
ビーマス鉱石
取り扱いが難しく毒性が強い為、一般には規制されている石。
これ一つで強力な魔力になる。
マナポーション
飲んだ人の魔力を回復する効果がある。
シュワシュワしているのでジュースと割って飲むと飲みやすい。要するに炭酸水