私のターン、さぁ日課をこなして今日を終わりましょう、バトルフェイズ
昼食を終えた坊ちゃんの食器を洗い、午後の予定を消化していく。
(いつも通り、洗濯物を取り込んでお湯を作って、塩と苦汁を分離して後は、ああ牛乳からバターを作っておくのはありですね。となればまた牛を呼び出して貰って乳搾りをしないといけないのですが・・・)
といった所で、ニッコニコの坊ちゃんと遭遇。遭遇自体は日に何度もある。外らしい外もなく狭い家だ。しかし、
(とても悪い予感がする。)
と言うのも、坊ちゃんがこの顔をしてる時は、だいたい悪巧みをしていると、私の記憶が語りかけてくる。
1度目は、脱走。ハイハイを始めたと思ったら、少し目を話した隙に部屋から脱走を試みようとするところだった。幼い体には顕著に害がある山積みの魔石、机の上にあるとは言え下手にぶつかれば崩れる皿の塔、戸棚に入れてはあるがうっかり触ると皮膚なんかを容易に切り裂く包丁などなど、危険が溢れる生活空間に突撃をかけるところだった。すぐ捕まえて子供部屋の中に転がしたが。ご主人様は対処する気が無いので、全力で対応に当たった。その中でも逃げる気満々の時はこの顔を大概していた。
それ以降ロクデモナイ事。「空を封召魔術で飛ぶ」と言ってぶっ跳ぶ事になる実験を行う前だったり。樽に乗って近くの海で遊んでいると思ったら、自ら進んでなんの装備も無しに遠洋に旅立とうとしたり。悪意と狂気を笑顔の下に押し込めてる顔なのだ。
(今日は、何をしでかされるのだろう)
なにぶん、予想がつかない。前例を完全に上書きする想定外をしでかすので、心の中で完全に身構える。
(殆ど金属の肉体でもう泳ぐのは嫌だ。)
敷地に船が接岸出来るほど、浅瀬がそもそも無いのだ。浮かばない金属の体で泳ぐのは、坊ちゃんがスイスイ泳ぐのを見る限り、人と比べてキツいのは、想像に容易い。と考えた所で
「午後の試練への挑戦をお願いします」
少し警戒を緩める。戦闘への対策を考えたのだろう。しかし、現状の坊ちゃんの性能では、手数と出力の差でどうとでも、封殺できる。
(なら、対応できるか。)
どれほど危険な一撃でも、
当たらなければ、
打たなければ、
意味がない。
間も無く私は、坊ちゃんの課題の相手に移った。いつものように互いの礼から始まり、坊ちゃんは、武器の準備も無く互いに構え終わり、全てが終わった段階で試合を始めようとする。そして、昼間と同じように封召紙を取り出した。その段階で私が付け込み、同じように紙を掴んで弾き坊ちゃんを投げ飛ばす。
(やはり何もなかったか。後は降ってくるのを待てば・・・)
直後ビリっと紙が千切れる音がした。
「ぅおわ、『決壊』」
坊ちゃんがすぐに降ってくる事はなく。降って来たのは、濁流とそれに混じった紙だった。
(この大質量の召喚を瞬時に?・・・違う、コレは封印を破棄して中身をぶちまけたのか!!)
封召紙を引き裂き、中身をぶちまく。召喚の速度を極めて向上させる裏技。
結果私の意表をつき、私は紙が紛れ込んだ水流に飲まれ、体制を崩す。
(紙が水を吸い込んで重い上に、関節張り付く!!)
円からこそ出ていないはずだが、自分の制御で手一杯になり、紙が全身を覆い貼り付き周りも見えなくなった。
(くそ、坊ちゃんは何処に)
と視覚機能を担う、顔面部の紙を振り剥がした直後。目の前で飛び蹴りを行う坊ちゃんがこちらに向かっており。
「来よ理に出でよ『爆』」
坊ちゃんの禁術で加速し私を円から弾き飛ばした。
(それ危ないから使わないようにしてたでしょ)
禁術とは、坊ちゃんが自らコレは危ないと使わないように心がける術の使い方である。『爆』と固有名があるアレは、封印の中身は入っているが入っていない空の封印。要は空気を封印して、加圧解放する事で推進力を得る、空を跳んだ術なのだ。
(コレは私の慢心ですかね)
少し円から出た場所に勢いを殺して着地する。負けを認め、姿勢を正しお辞儀。シヴ様は、受け身が取りきれず肩から着地する事になったのか痛みに悶えてゴロゴロ床を転げていた。真っ白になって。
(あー)
周りを見渡せば、ふやけた紙や小魚そこらじゅうに貼り付いていた。どうやら濁流を起こすほどの大量の水は、海水だった事がその時わかる。放っておくと、塩やら紙やら小魚の死骸やらがその辺に貼り付き、エライことになる。
そこで私は一度家に戻り掃除道具を持って来て、シヴ様と後片付けをすることにした。
(閉まらなあいなぁ)
何故だか悪い気はしなかった。
リバースカードは
紙と海水と空気
海水が魔力を馬鹿喰いするので、実は飛び蹴り直前に殆ど防御は残ってなかった。